BRAUNとは違うのだよ!BRAUNとは!!
家電品で開発競争が面白いものの二大巨頭は、電動シェーバーと電動歯ブラシであると思う。
電動シェーバーは特許がらみのネタもあったりして余計面白い。
基本的に、電動シェーバーの世界ではBRAUNが圧倒的に強い。次に松下のラムダッシュだ。しかし大変面白い点があって、この両者は電動シェーバーの基本特許に於いては後れを取った2社なのである。
この2社もそうだが、電動シェーバーでは大多数が「往復刃」方式を採っている。刃が線上を往復するように動いて、網から入ってきた髭を切断する方式だ。ラムダッシュなどはリニアモーターだとか何だとかもうわけわかんねー領域にまでイッておしまいになるほどカンカンになって往復スピードを上げようとしている。
それは何故か?
往復刃方式には致命的な方式欠陥があるからだ。考えて貰ったら分かるが、往復する方式である以上、絶対に刃が静止する瞬間が発生する。これはもう指1本で逆立ちしても克服できない。宿命だ。止まらなければ戻ってくることができないんだから。故に、とんでもないスピードで動かして静止している瞬間を無かったことにしたいのが、ラムダッシュが病的に刃を動かすスピードを上げたがる理由。指1本で逆立ちするケンシロウみたいなもんだ。
対して、根本的に静止時間が存在しない方式がある。ロータリー刃だ。
回転刃方式は、スイッチを入れている限り絶対に静止時間がない。当たり前だ回転運動なんだから。
ただし、ロータリー刃には2種類ある。肌に対して垂直軸で回転する方式と、肌に対して平行軸で回転する方式だ。前者を作っている代表がPHILIPS。後者は私の知る限り日立しか作っていない。日立の特許だと思う。
平行軸方式を先に取り上げさせて貰うと、この方式は2つの利点があると思う。まず、回転刃なので絶対に静止時間がない。次に、肌と平行に回転し髭を巻き込むような形で切るこの方式だと「髭を引っ張っりながら切る」事が可能になる。つまりなんかゴチャゴチャ工夫しなくても方式が既に深剃りなのだ。肌と平行回転するロータリー刃独特のメリットで、これはもうまさに考えたもん勝ちである。よく「安全カミソリで剃る感触に一番近い」とされる。私は日立のロータリーシェーバーを持っているのだが、確かに深剃りだ。剃り終わった後のスベスベ感は図抜けたものがある。
欠点としては、構造上ヘッドの横幅がどうしても広くなるため、やけに頭でっかちで見た目ブサイクになりがち(ただし最新型はかなり頑張ってきた)で、しかもトップヘビーなので立てて置くと僅かな傾きや揺れでもひっくり返りやすい。そしてこれはまあ個人的な問題もあるが、髭がある程度以上伸びてしまった状態で使うとそれはもうメチャクチャ痛い。何故なら構造的に髭を引っ張りながら切るので、髭が伸びた状態だとそこら中の髭が猛烈に引っ張られるからだ。メリットが仇になってしまう。間違いなく日立はしょっちゅう髭を剃る人向け。それともう一つ。これも深剃りなのが災いして、肌が弱い人に日立は向かない。私もちょっと強く押しつけてしまうとかなりヒリヒリするし、押しつけすぎて出血した事も一度や二度ではない。その方式上、安全カミソリのように刃と垂直方向に動かして剃らないとちゃんと剃れないのも無理に指摘すれば欠点かも知れない。これも安全カミソリに近い使用感とされる理由だと思う。
対して、垂直軸回転のPHILIPS。「回る3枚刃」とくればPHILIPSだが、この3枚刃特許はPHILIPSのものではない。この回る3枚刃に関しては有名な特許訴訟ドラマがある。
実は、この回る3枚刃シェーバーの特許は日本の泉精機が持っている。が、誰もそんな会社知らないと思う。セイコー銘の回転刃シェーバーをOEM生産している会社だ。回転刃シェーバー自体の発案は古いのだが、小型を3個組み合わせると垂直軸回転シェーバーの欠点を打ち消す事が出来る画期的事実に気付いたのはこの泉精機だった。当然特許を取ったが、セイコーブランドとシェーバーがあまりリンクしないこともあってか、さほど売れなかった。
その後3枚刃をきっちり商品化したのは巨人PHILIPSである。で、PHILIPSは極東のサルどもが自分たちの発案であるはずの3枚刃シェーバーをこのPHILIPS様に断りもなしにちまちまと売っている事に気付いた。当然訴訟である。特許使用料よこせ、ととんでもない額を損害賠償請求してきた。確か日本円換算で何百億とかそんなぶったまげの額だったと覚えている。新聞にも載った。とにかく凄かった。しかし泉精機は大PHILIPS相手に尻尾を巻いて逃げなかったのである。弁護士と綿密な相談の末、この方式は我々が先に考案して特許も取っていたのだから、どう考えてもPHILIPSの訴訟はお門違いで、これはむしろ我々が特許使用料を請求できる筈だと結論。PHILIPSを特許侵害で逆提訴し、見事勝訴する。PHILIPSは自分が仕掛けた喧嘩で自爆し、特許使用料を取るどころか逆に払う羽目になった。これは日本の企業が関わった特許訴訟史上に残る快挙である(そのくらい日本の企業が絡んだ特許訴訟は負けが多いのだが)。泉精機はその製品よりもPHILIPS相手に特許訴訟で勝訴したことの方で知られているくらいだ。
ようは、この方式は特許戦争になるくらい方式として優れているのだ。
もちろん刃が静止する瞬間がない上、この方式だけが今のところ唯一肌に触れた状態でどの方向にシェーバーを動かしても剃れる方式だ。これはもう垂直回転刃でしか絶対実現できない。そして3枚刃でないとどの方向に動かしてもいいわけではない。同じ垂直回転でも2枚刃までだと動かし方を考えないと剃り残しが出る。泉精機が特許を取ったのも当たり前で、方式として大変合理的なのである。またこの方式は大変肌に優しいのも特徴的で、垂直回転3枚刃でカミソリ負けする人が使える電気シェーバーは無いと書いても過言ではないほどだ。それと、PHILIPSしか使ったことがない人は気がつかないが、この方式は伸びてしまった髭やクセ髭に凄く強い。他社のシェーバーがクセ髭専用刃を備えてきたりするなかPHILIPSはそのような事を昔も今もやらないが、根本的にクセ髭に強い方式だからだ。他のシェーバーからPHILIPSに乗り換えると、クセ髭の剃り残しがズンと少ない事に驚く。
ここで話はブラウンに移る。
商品に対するBRAUNのアプローチは大変面白い。
BRAUNのシェーバーは基本的に往復刃のありがちなシェーバーである。方式そのものには何の面白みもない。だが、BRAUNの企業努力はちょっと病的なくらい凄い。本質として決して優れた方式ではない往復刃をひたすら研究し、練り上げ、積み上げてきた。おかげで深剃りのブラウンとして定評まで築き上げた。これはもう凄い努力だと思う。日立のロータリーが深剃りなのとは訳が違う。そしてブラウンと来れば何よりもあの自動洗浄システムだ。確かにブラウンが提唱する「革新的なアイデア」であるのは間違いない。これを考えた人物は、3枚ロータリー刃を考えた泉精機とは185°くらい違う意味合いにおいて凄いと思う。実際問題、この自動洗浄システムはとても気持ちいいらしい。またPHILIPSがバッテリにあっさりリチウムイオン電池を搭載してしまうのに対し、ブラウンはニッケル水素電池なのだが、例のメモリ効果を起こすわけで、ブラウンは考えた。何と半年に1回勝手に電池を完全放電してリフレッシュする機能まで搭載だ。
もうね、なんかガンダム。ノリが。次々と新しいモビルスーツを開発するジオン軍のノリ。ブラウンに任せておくと、しまいには自律移動して顔にやってきて寝ている間に髭を剃り終え、仕事を終えたら勝手に元に戻る機械を作りそうな勢いである。
PHILIPSが3枚ロータリーシェーバーを作り続けるのは、その合理性もともかく訴訟で大枚を失ったので回収する目的も大きいと思う。だが、PHILIPSのシェーバーが現実にもっとも合理的な方式を採用している事実は動かない。バッテリも、ブラウンみたいに恐るべき力わざでやってしまのではなく、シレっとリチウムイオンだ。この合理性が私の琴線に触れる。また、あまり話題にならないが壊れているのかと思うくらい静かなのもPHILIPSのシェーバーの大きな長所だ。どのくらい静かかが端的に分かる例を出すと、髭を剃りながら大声でなくても普通に会話できる。これは電気シェーバーを使ったことがある男性ならすぐ意味が分かるだろう。
垂直軸回転刃シェーバーも欠点はやっぱりあって、明快。構造的に、いわゆる深剃りは無理がある。BRAUNのあの有名な一連のCMはここを突いたものだと思う。
「ずっと愛用できるシェーバー」を考えるなら、日立かPHILIPSだ。この2つは「優れた方式」を採用しているところに根本のセールスポイントを持つため、他社とは違う土俵に立っている。ラムダッシュの往復回数が1分2万回になろうと5万回になろうと、500万回になろうと元から静止時間がない日立やPHILIPSのユーザーにはそんなこたーどうでもいい。BRAUNが深剃りをあえて犠牲にしてまで肌に優しい剃り心地を標榜した新シリーズ「360°」を新発売したが、PHILIPSユーザーにすればこのBRAUNの涙ぐましい企業努力など抱腹絶倒モノである。なんせ肌に優しくない方式を採用しておきながら性能を落としてまで肌に優しくしようとしているのだから。
BRAUNの製品改良にかける情熱は素晴らしい。だがそれ故に、ジオン軍のモビルスーツと一緒ですぐ陳腐化してしまうのだ。
「ザクとは違うのだよ!ザクとは!!」
と喋る側はいいが、ザクに乗ってる人間の立場はどうなるのだ。
私はPHILIPSである。
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コメント
PHILIPS泉精機の話、面白かったです。
と、
「ザクに乗ってる人間の立場はどうなるのだ。」で悶絶しました(笑)
ブラウンと言えば、一般的にはあまり知られていないようです(知っていると思ってます)が、一般的な家電も製造しています。がしかし、シェーバーに力を注ぎ過ぎているのが丸分かりなほど、ヒジョーに使いづらい物が多いような気がします。
特にコーヒーメーカー。バカ高い値段取る割に、デザイン性無し、機能性無し、利便性無し。怒るでホンマ!
投稿: きりこマネージャー | 2006年4月14日 (金) 03:16
んー、確かにBRAUNの白物家電はダメですね。
bamixのパクリ商品なんぞも出してますけど典型的なパチモンです。
しかし何故BRAUNなんぞのコーヒーメーカーを(笑)
それこそamadanaお勧めっすよ。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年4月15日 (土) 12:37
ブラウンのコーヒーメーカーは勤務しているお店にて使用しています。
なぜかといいますと、頂き物だからです。
一度、ガラスのポット部分を壊してしまったことがあってメーカー取り寄せをしたら、ひとつ3千円くらいするじゃありませんか?!ドンキホーテに行けば新しいのが買えちゃうよってなもんです。
投稿: きりこマネージャー | 2006年4月16日 (日) 03:45
そのうちamadanaのコーヒーメーカー取り上げる予定です。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年4月18日 (火) 18:20
おおっ、待っておりますよ!
投稿: きりこマネージャー | 2006年4月19日 (水) 03:51