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2006年5月17日 (水)

Campagnolo HYPERON Tublar

Hyperon2

デビュー後何年も経つが、未だに軽量ロープロファイルカーボンリムホイールのマイルストーンであり続ける傑作。

最高のハブと軽量を両立した素晴らしいホイール

…の筈だが、どうかな。
今や他社の追い上げで大変苦しい立場だと思う。

もちろん、ホイールと呼ばれているアルミ文鎮と比べたら断然軽い。実測で前後1300gを切る。
だが、今やZIPP303がミドルハイトリム採用でHYPERONを下回る時代だ。

そも「ロープロファイルの方が軽く作れる」発想そのものが古い。カーボンで作る限り、実はある程度ハイトがあった方がホイールは軽くなる。ハイトがあるとリム断面は「△」に近くなり、当然だが同じ強度の素材で作った場合「□」よりも強度が増す。しかもスポークは短くなり、リムが強いとスポークテンションを上げてスポークの数自体を減らすことも出来る。共に軽量化と空力の向上に同時貢献する。LightweightのホイールがVentoux以外ハイト50mmもあるのに異常に軽いのは、単にガッシリ作るのではなく構造体全部で強度を出す考え方と、前述の通り四角形よりも三角形の方が強くなる理屈に基づいて作っているからだ。(その他の理屈も使っている)だから実はあれで案外空力を追求してはいない。今現在高価格ホイールでロープロファイルにこだわっているのはあくまで「極限の加速性能」を求めたものだけ。少数派もいいところだ。

HYPERONの出来自体には何の問題もないが、設計思想が古いのだ。もはや「一昔前の傑作」感は否めない。

HYPERONは高いホイールなのでいろいろと先入観を持って見られがちだが、使ってみると実は「物凄く良くできた普通のホイールである事がわかる。これと挙げられるようなクセがない。カーボンリムだがカーボン用シューを使ってやればブレーキが抜群に効くし、熱ダレもしない。

入手した当時、リアに2mmを超えるフレがあった。たぶんそれが前オーナーが手放した原因なのだろうが、私がちょっと頑張ったらすぐに0.5mm以下になった。これは私の腕じゃなくてHYPERONのスポーク数が多く、変則的な組み方をしていないからだ。スポーク数は多ければ多いほど、変則組みでないほど振れ取りがしやすい。これがBORAならこうはいかない。私の感覚ではメンテナンスのしやすさもHYPERONの良さだ。そんな話は他で聞いたことがないが。

レースにおいて、36Hとか32Hの手組みホイールでやってきた太い脚の持ち主は、その一見貧乏くさい機材と裏腹に恐るべき敵であることが多い。走りにも機材にも精通した結果として多スポークホイールを使用している彼らがアタックをかけたときのダッシュ力は、たいていの場合私のような人間ではケツについていくこともできないほど強烈だ。多スポークでハイテンションのホイールは断然加速の「かかり」がいいからだ。軽量化をとことん追求したホイールは、卓上で考えると加速に有利そうに思えても実際にドンッと加速するとたわんで力が逃げてしまうようなところがあり、刺すか刺されるかのようなアタック合戦にはあんまり向いていなくて、綺麗でスムースな加速をしてやらないと駄目だ。高速域で決して有利ではない多スポークの手組みを使うあたり明らかに強度・反応性重視であり、いつでも勝負に出られる事を重視したチョイスだ。「あのコーナー過ぎた登りで一発かましたる」ような事をしたい人間がリア16Hのホイールとか、そりゃあかましたいのはアタックではなくてボケだ。

HYPERONは明らかにこの「かかり」がいい系統のホイールである。

加速のよさでHYPERON以上のホイールにはそうはお目にかかれない。もっと重いホイールでかかりがいいホイールは幾つもあるが、これ以上軽くてしかし全力でダッシュしても力が逃げないホイールは滅多とないからだ。スタートダッシュなど、下ハン持って引きつけながら加速すると簡単に前輪が浮く。それがどうしたと思うかも知れないが、最初のそのひと踏みふた踏みで力が逃げるホイールだと浮かないんだこれが。HYPERONはヒョイと簡単に前輪が浮く。いかに力が逃げてないかが分かる。しかもこの手のダッシュ力は単にガッチガッチンならば良いわけでもなくて、ごくごく少しの「タメ」を作り、かつそれを速く解放するタイプの剛性がいる。でなければカーボンディスクホイール使えばそこら中でウイリーだ。完全にソリッドであることは必ずしも力を活かすこととイコールではない。人間の脚はモーターじゃないからだ。

欠点もある。

60km/hを超えるのは物凄く難しいと思う。非エアロ形状のロープロファイルリム&多スポークの宿命だろうか。HYPERONでいつでも自在に60km/hを超えられる人間は真のスプリンターだと思う。50km/hくらいから前に関取でもいるような感じになって急激に伸びが鈍る。重いからそこをどけ。

ダイナミックバランスも良くない。
カンパのホイールはダイナミックバランスがまるでなっちゃいないものが多く、この辺はちょっと謎だ。タイヤを装着したらバルブコア側に偏るどころか、タイヤをはめていなくてもいきなりバルブコア側が重い。これはHYPERONもBORAもそうだった。おいおいそりゃ逆じゃろうが。そんなもんくらい自分で調整できないヤツは乗るなとするカンパからの挑戦状なのか?カンパがダイナミックバランスの意味を分かっていないとは思えないので「これは儂を試しとるのか?」と悩んでしまう。バランス取りは必修科目だ。写真のHYPERONもちょうど貼ってある鉛が写っている。

HYPERONを使うこととは「普通のホイールにこれだけの金を出せるか」に尽きると思う。バカはこの手のホイールを「ヒルクライム向き」と誰かのレビューの聞きかじり能書きをさも知った風に垂れるわけだが、まさにバカだ。HYPERONはクセがない大変出来がいい「普通のホイール」だから、何に使ってもいける。だからヒルクライムに向かないホイールと比べたら自ずとヒルクライム向きに思えるだけのことだ。ヒルクライムなんざ99%実質タイムレースなんだから、ひたすら軽いかどうかで選ぶべきだ。そして3年前ならいざ知らず、もっと軽いホイールはある。カンパのホイール同士で重さを比べてもHYPERONとBORAなんて誤差くらいしか違わない。HYPERONのいいところはそんな事よりかかりの良さだ。ゴール直前のスプリント勝負はかかりがいいホイールかどうかでえらい違いだ。HYPERONはラスト100mでオリャッ!!ともがくのに最高のホイールだ。

私がもっと経済力あったら今も手元に置いていたと思う。
ハブの回転とかも最高だったし。

でも「とてもよくできた普通のホイール」になかなか大金は出せん。
これだけの価格には、一般人は特別な何かを求めてしまうものだ。HYPERONの場合それは希有の反応性なのだろうが、あいにくと私は全然スプリンターではない。

Hyperon1

カンパのファクトリーコンプリートの中で、実はBORA以上にお大尽なホイールであるかもしれない。

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