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2006年5月 1日 (月)

ウルリッヒやばいぜウルリッヒ

Jan Ulrichが本格的なレースに今年初参戦した。
それはいい。
問題はコレ

Ur

だ。

コレを見てうわあああと思った人は観察眼:並以上
ヤバいぜウルリッヒ!
顔がヒョウタンツギになっちまってるじゃねえか!!!

Ulrichはお笑い芸人ではないので、頬に綿を入れてレースに出走しているわけではない。

スポーツ選手として、ほとんど「そんな馬鹿な」級の外観である。相撲取りじゃないんだからさ。

まただ。

ここでまず歴史を少々紐解くと、Jan Ulrichは凄く大した選手だった
旧東ドイツ最後のスポーツエリートの一人としても知られる彼は少年期にその才能を見いだされてスポーツエリート育成学校へと入校し、10代後半の頃既に同年代で並ぶ者はないほどの才能を発揮。主に自転車トラック競技でタイトルをがんがん獲りまくった。その後本人の意向でプロロードレーサーとしてデビューしたが、本人の目論見も才能もバッチリで、23歳にして早くもLe Tour de Franceに総合優勝した凄い天才アスリートである。いや、超が付くくらいの天才だったLance Armstrongの2歳年下で、Le Tour de Franceに優勝したのはちょうどArmstrongが癌と闘病中だった1997年の話である。まだ20世紀だった頃の話だ。

で、当然ながらこの若干23歳のチャンピオンに世間は驚喜した。意外?な事に、ドイツ人初のLe Tour de France総合優勝者でもあり、ドイツでは余計に英雄扱いされた。ドイツは昔から有力自転車選手を何人も輩出している強豪国だし、チームとしても2006年現在UCIプロツアーに参加しているチームの中で世界最高の予算額を誇るのは他ならぬドイツのT-Mobileであるくらい自転車競技は盛んなのだが、Ulrichが勝つまで総合優勝したことがなかった。まだ23歳だったことも手伝って、Le Tour de Franceの史上最多勝記録であった5勝を塗り替える選手が現れたくらいの勢いで騒ぎになった。実際それくらいの素質はあったと思うし、素質だけならArmstrongを上回っていた可能性がかなりある。

しかし、Ulrichはどうも精神的に弱い。

たとえばアタック。坂でアタックを掛けられたりすると、Ulrichは付いていくべきか見送るべきか迷っている間に差を付けられてしまうような場面が大変多い。行くか行かないか、咄嗟に決断し行動する断行力が低いのだ。このため気合いで勝負するようなタイプの勝負勘に優れた選手(Aleksandr Vinokourovなどはこのタイプの典型だ)に、総合的な運動能力としては勝っている筈なのに負けたりする。

そしてUlrichで大変有名なのは、オフシーズンになるとお約束のように食べ過ぎてデブる欠点である。今年もこのヒョウタンツギ顔を見れば一目瞭然。Ulrichは今年もまたやらかしたのである。顔だけで空力を何%かロスしそうなくらい顔がでかくなるほど太っている。顔だけ見れば、これが世界のトップアスリートの顔とはにわかに信じがたい。Ulrichは重量挙げや砲丸投げの選手じゃないぞ。

Ulrichはこの食い過ぎ癖のため、シーズンイン後に慌てて体を絞ろうとして無理に減量し体力までガタガタに落ちたりとか、やっぱり絞り切れなかったりとか、正直、100%の状態で戦った事の方が珍しい。Ulrichが100%を見せたのはLe Tour de France初優勝の1997年と、その前年1996年、そして2003年くらいである。それでも常に優勝争いに絡むのだからある意味凄い選手なのだが、いくら天才でもデブだったり反動で絞りすぎたりの状態で勝てるほど世間は甘くないわけで、毎年のように勝ちに来ているLe Tour de Franceでも初優勝の後は2位以降ばっかりである。体調万全だった2003年はArmstrongと完全互角のガチンコ勝負を繰り広げた末に敗れた2位だったので、やはり体調さえ良ければいつArmstrongに勝ってもおかしくない選手だったが、結局Lance Armstrongは怒濤のLe Tour de France7連覇を達成して勝ち逃げ引退。Ulrichはとうとう一度もArmstrongを負かすことが出来なかった。

妙な記録としては、Lance Armstrong、Jan Ulrich、Joseba Belokiの3人は、2000年と2001年のLe Tour de Franceで、100年以上の歴史の中でたった1度しかない「2年連続で総合優勝の表彰台の1、2、3位が全く同じ人物同じ順位」の珍記録を達成している。

UlrichはArmstrongがいなければ3〜5回くらいLe Tour de Franceを総合優勝している筈なので、同時代にArmstrongがいたせいで過小評価されているところも多分にあるかなり可哀想な選手だが、前出の通り食い過ぎるとか精神的に参って薬物に走ってみたり(ドーピングではなくていわゆるドラッグの方)とか飲酒運転で事故起こしてみたりとか余計なニュースにも事欠かない、やたら人間的なヤツである。ライバルであるArmstrongから「彼はいつも調整に失敗した状態でツール(・ド・フランス)にやってくる」とまで苦言(説教?)を呈された事があるUlrichなのだが、Ulrichを誰よりも恐れマークしていたのは他ならぬArmstrongで、Ulrichの潜在的才能を高く評価していた。Ulrichには2005年もニュースがあって、Le Tour de Franceの開幕直前に練習走行中、前を走っていたチームカーが突然ブレーキを踏んだ事から思いっき り追突して窓ガラスを破るほど突っ込んでケガをし、それだけ突っ込んだのだから当然精彩を欠いたUlrichは、初日の個人TTで何と1分後にスター トしたArmstrongに途中で抜かれてしまうあまりに劇的かつぶざまな姿を晒してしまい、Ulrichが抜かれるそのシーンは「Armstrong、絶好調で7連覇へ向けスター ト」の文言付きで世界中に報道されまくってしまった。この事故は後ろにUlrichがいるのが初めから分かっていたのに思わず急ブレーキをかけた(横から車 が出てきたせいなのだが)チームカーが100%悪いのだが、おかげで初日からミソつきまくりで、一回も見せ場を作れないまま敗北した。実は2005年の Le Tour de FranceではArmstrongもUlrichの少し前にこれまた交通事故に遭っているのだが、こちらは擦り傷だけ。Ulrichは運すら味方しない男であ る。

そのArmstrongが引退した今年のLe Tour de FranceはUlrichにとって捲土重来の大チャンス…だった筈なのに、このヒョウタンツギは…(汗)

人間、簡単には変わらない。それは世界トップクラスのアスリートであってもだ。そんな教訓を身をもって教えてくれるUlrichはやっぱり大したヤツなのかも知れない。頑張れ、Ulrich。ツールまではもう少しだが時間がある。

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