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2006年5月 9日 (火)

SRM? or ergomo? this is the question.

SRMか、ergomoか。
難しい問いである。

Armstrong

パワートレーニング機器として第一人者なのは紛れもなくSRM。

歴史がありまた業界デファクトスタンダートであるが故の強みも持っている。様々なニーズに応えるモデル数の多さやSRMの走行データに対応しているソフトの多さは、長年商売をやってきた商品らしい。

パワー計測器としてほとんど唯一の存在であったSRMのユーザーには「錚々たる面々」と呼ぶにふさわしい名前が並ぶ。ランス・アームストロングがトレーニングに使っていたことでも知られるSRMだが、SRMのHPにもSRM装着バイクでトレーニング中のランスの写真が載っている。上の写真だ。今はどうか分からないが前はSRMのマニュアルの扉までがこの写真だった。

もともとドイツ自転車協会の要請で生まれたSRMは、単なるトレーニング機器と呼ぶよりも「計測機器」と考えた方が実態に近い。大雑把に分けてまず3系統あるのだが、それぞれアマチュア、プロ、サイエンスとなっており違いはパワーの計測精度である。アマチュア±5%、プロ±2%、サイエンス±0.5%となる。当然だがサイエンスの値段はうんと高い。SRMの場合、クランクのスパイダーアーム部分にセンサーとなる円盤状の機器を組み込んで出力を計測する。全く同じ部品を流用したエルゴメーター型のPower計測可能トレーニング機器も作っており、これを使うことで「このポジションが一番パワーが出る」とか「このクランク長が一番パワーが出る」とかを感覚に頼らずきちっと調べることもできる。人間の感覚には好き嫌いや思いこみがかなり強く作用するので、ちゃんと調べてみるとてんで間違ったことを無理にごり押ししている事はよくある。計測機器で調べるのはけっしてバカに出来ない。そしてそのために産まれたのがSRMである。

対するergomo、SRMに相当する商品としては「ergomo pro」となるが、これは新興である。SRMと同じドイツ生まれなのがドイツらしいが、SRMがクランクのスパイダーアームにセンサーを組み込む方式なのに対し、ergomoはBBそのものにセンサーを組み込んだのが最大の特徴である。こちらは精度±1.5%を標榜する(後にファームウェアのバージョンアップで±0.5%に向上)。力が加わった時のごく小さいねじれを計測して作用しているパワーを算出しているのはSRMもergomoも同じ理屈で、違いは計測している場所。ergomoはSRMが圧倒的に君臨していたこの市場に殴り込んできただけあってSRMへの対抗意識はかなり強く、SRMにない特徴を備えている。

お互いの長所短所を挙げると

  • SRMはスパイダーアーム組み込み型なのでPCDを後から換えることはできない。特に78DURA-ACEクランクやFSAのカーボンクランクに組み込んだ新型のスルーアクスルタイプはクランク長の変更も効かない(前からのBB別SRMはクランクだけなら交換可能)。暫く前までSRMにはPCD110mmのいわゆるロードコンパクトドライブが無かったが、今年になって旧型とスルーアクスル型の両方でラインナップに加わり解決された。
  • ergomoはBB組み込み型なので嵌合さえ合えば何でも好きなクランクを自由に使うことができるが、逆にスルーアクスル方式クランクだけは使えない。ちなみに物凄くシュールな組み合わせとしてBB別SRMはergomoに装着して両方同時に使うことができたりする。
  • 2006年5月現在、SRMに高度計機能はない。ergomoにはある。このためSRMの吐き出す走行データは「どんな高低のコースを走ったのか」が分からない。ergomoは上り下りまで含めたどんな状況でどのくらいパワーが出ていたかを総合的に見ることができる。POLARを活用している人間なら分かるが、高度計のあるなしはちょっとした違いに見えて意外と大きな違いである。
  • 一回の充電による作動時間はergomoの方が長い。またergomoは1秒間隔記録で8時間も記録できるほど多量のメモリを搭載している。
  • コンピューターはergomoがドットマトリックス表示、SRMのPowerControl Vは電卓でお馴染みの7マトリックス表示である。ergomoにはバックライトまで付いている。
  • SRMはさすが計測機器なのか「再校正」することができる。ergomoはできない。その必要はない、がergomoのメーカー見解らしい。
  • SRMはB.T.O.オプションでPCに繋いでペダリングトルクのオンラインリアルタイム計測・表示を行う機能を付けられる(あくまでB.T.O.で、後からは付けられない)
  • ergomoはSRMのアマチュアモデルくらいの値段である。

のような違いだ。SRMのコンピューター部分「PowerControl」はなんだかんだで現在5代目であり、コンピューター部分だけの取り替えが効くようになっている。アップグレードサービスもある。ergomoが登場以来「うちは高度計が入ってるからどんなコースを走ったか一目瞭然!」を強烈にアピールしている(アピールする価値のある違いだ)ので、将来発売されるであろうSRMの6代目コンピューターで高度計が加わるような気がするが、具体的にアナウンスされているわけではない。サイクルコンピューター内蔵の高度計など高度計本来の機能としてはハナクソみたいなものだが、コースのアップダウンを目安として知ることが出来るのは大きい。単に脚が切れただけなのか本当に急坂だったのか、高度計が付いていれば後ではっきり分かる。計測器である以上、計りすぎはない。計らなくていい人間なら計測器なんか付けないからだ。

ergomo添付のデータ分析ソフトはもともと単体商品として売っていたソフトをergomo用に作り替えて貰ったものらしく、もとが単体商品だけに高度な分析が可能で出来がいい。SRMは標準添付のソフトもそれなりに高機能だし、気に入らなかった場合、SRMは歴史が長く第一人者だったので単体商品としてSRMのデータに対応する解析ソフトが幾つもあってこれが大きい。デファクトスタンダートの強みだ。

どちらがいいか、使い方にもよるので簡単に答えは出せないのだが、実用面から見ると高度計のあるなしはかなり大きい。トラック競技しかやらないならいざ知らず「今しんどいのは向かい風のせいなのか微妙に登っているせいなのか」を人間の体感で知るのはけっこう難しかったりするので「ああ、やっぱりあそこは少しだけ登っていたのか」等と判明するとスッキリ度合いが違う。ergomoは1台だけでサイクルコンピューターとしての全てを賄わせる事がやろうと思えば可能だが、SRMだとPOLARから乗り換えて機能が減るところがある。私ならSRMにはPOLARを追加したい。POLARだと高度計があるからだ。

少し前まではSRMを買うか否かだけが問題だったので、ergomoのお陰で贅沢な悩みが生まれたわけでもある。私としてはergomoと競争することでSRMに高度計が載ってくれたら大変有り難い。

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コメント

私は測定値の恒常性がパワーメーターの命と考えます.

SRM Am./Pro.の違いは,計測精度といいますか,計測再現性の違いでしょうか.
Am.は校正ずれ(オフセットやスロープのずれ)が生じるまでの期間が短いらしく,やや使いにくそうですね.2ストレインゲージ式(SRM Am.)は4ストレインゲージ式(SRM Pro., PT)と異なり,回路的な工夫による温度補償が難しいという点も困りものです.トレーニング記録・ゾーン設定の観点から,オフセットがいつの間にか生じていると,非常に困ります.だからSRMならPro.以上がいいですね.

Ergomoの校正は確かに問題です.私も代理店やCycling Forumsで聞いてみたり,Topica Wattage Listを眺めてみましたが,校正済みSRMもしくはPTとの併用以外に方法がありません.これではPolar Power Kitと同じです.Ergomo社は確かに校正不要と言っていますね.オフセットはずれるが校正なしに直せると.しかしスロープがずれない理屈や,それを裏付けるデータが全く示されず納得できません.経年変化がありそうなものですが.

私はPTを持っているのでErgomoでもいいかな,と思いますが,できればSRM Compact Pro.が欲しいですね.

Ergomo添付ソフトウェアのオリジナル(CPS)は私も使っています.動作が速く,トレーニングへの応用を意識した解析機能が使い易いことからデファクト化しており,SRMを使う場合でもお薦めします.

高度計に関しては仰るようなmishap analysisよりも,私は標高による空気密度の低下や,パワーへの影響を推し量るために有効だと思います.急坂であろうがフラットであろうが,“power is power”ですから.

投稿: tarmac | 2006年5月10日 (水) 01:00

ども!
私も恒常性はパワーメーターでなくても計測機器のイノチだと思います。
適当でいい計測なら初めから計る必要がないですよね。
POLARのPower Outpt Sensorがパワーメーターとしてほとんど役に立たないのも、単体で校正ができないため表示値がデタラメなのか正しいのかさっぱり分からない点ですね。POLARのPower Outpt Sensorをちゃんと作動させたければ他にSRMかPowerTap買って調整してやらなければならない。これじゃあ何のためのパワーメーターだか。

高度計に対する考え方の微妙な違いは、私の場合単純にサイクルメーターをあまり増やしたくないのが第一にあるせいです。パワートレーニングのみを考えれば「坂かどうかは関係がない」で全くその通り同意します。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年5月11日 (木) 11:12

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