常識ここに眠る
ホイールに関して大変興味深いテスト結果を見つけた。
色んなホイールの空力を、SRMを装着したTTマシンを用い、同じ速度でトラックを周回したときに各ホイールごとに必要だった出力として計測。結果の優劣を数字として比較したテストの結果値である。
ドイツの雑誌が行ったものだ。
前から思うのだが、ドイツ人はやたら科学的でしかも異常に徹底したところがあり、さすがSRMやergomoが生まれる国だなと感心する。ドイツでは交通 事故が発生すると自動車メーカーの人間が事故現場に急行し、車の衝突がどのように発生し結果どのように車体が破壊され乗車人員はどうなったかを詳細 に調べ新車の安全開発に役立てている(警察側もそれを公に許可している)のが有名だ。その調査の結果のフィードバックでメーターやスイッチの場所、ワイパーの作りまで変わったりする。ドイツらしいエピソードだなと思う。日本では考えられない。
で、結果。
これがもう驚き。
「定評とか見た感じとか数字とかでホイールは分からない」
の一言に尽きる結果だった。
順位を羅列すると
- Vuelta Carbon Pro
- XeNTiS Mark1 HM
- ZIPP 808
- Bontrager Aeolus 6.5
- ZIPP 999
- Ritchey WCS Carbon
- Easton Tempest II Carbon
- Lightweight 16H+Lightweight Disc
- MAVIC COSMIC CARBON SL
- Corima Turbospoke + Corima Disc
- Corima Turbospoke
- Lightweight 12H+Lightweight 20H
- Corima Aero
- Tune Olympic Gold
- Nimble Crosswind
であった。効率最高はVuelta Carbon Proと 出たからこれはまさにびっくりだ。Vueltaはイタリアのメーカーで、最上位モデルCarbon Proは58mmのハイトのフルカーボンリムにF12、R16と少スポーク構成の、珍しいマグネシウム製扁平スポークを採用したディープリムホイールだ。 ハイト58mmのリムはZIPPのOEMであることが公表されている。ついでに4スポークホイールはCORIMAのOEMだしディスクホイールもCORIMAのOEMだ。OEMだらけのメーカーで、こう書いてはなんだが「なんでこんなとこが1位やねん」と思うのは私だけではないと思う。マグネシウムスポーク採用だが、前モデルZIPP404のリムを採用している関係か現行ZIPP404と比べても特に軽いわけではない。テスト時の実測F657g、R881gだった(新モデルの「Vuelta Carbon Pro WR」では新ZIPP404のリムをOEMして貰ったようで軽くなっている)。だがとにかくこのVuelta Carbon Proが何故か(と書いたら失礼だが)速度を維持するのに最も少ない出力で済んだ。
理論上最高の空力となる筈の前後ディスクの組み合わせはテストされなかったので結果不明だが、前輪ディープ後輪ディスク(ZIPP 999、Lightweight 16H+Lightweight Disc)や前輪エアロバトン後輪ディスク(Corima Turbospoke + Corima Disc)、前後エアロバトン(CORIMA Turbospoke、XeNTiS Mark1 HM)の組み合わせを打ち負かしたのは全くもって驚きだ。
参考事項としては
- XeNTiS Mark1 HMはほとんど誤差に近い僅差で2位となり、同社が提唱する独特のエアロ形状バトンの利点を一応実証する結果になってはいる。なおこのホイール、前後合計1200g!!!とそこらへんの“軽量”ホイールなど裸足で逃げ出す物凄い軽量で、エアロバトンホイールとしては多分2006年6月現在世界最軽量。怪物じみて軽い。値段もLightweightのノーマル バージョンより高いなど怪物じみているが。
- ZIPP999ホイールセットが、違いが後輪だけでしかもRディスクで理論的には有利である筈のZIPP808(ZIPP999とは前輪ZIPP808と後輪ZIPP900のセット)の後塵を拝しているばかりかAeolus 6.5にも負けている。
- RitcheyとEASTONが意外に健闘している。ちなみにEASTONのホイールはもともと隠れた銘品として有名だったVelomaxを会社ごと買収したものだ。故に正確には“EASTON Velomax”銘になっている。
- CORIMA TurbospokeとCORIMA Discのプロツアー個人TT御用達組み合わせが、ディープリムホイールに軒並み敗北している。
SRMを使いライダーとバイクは同じ。ライダーはエアロスキンスーツとエアロヘルメットを着用しDHポジションで走っている。そして路面や風の影響 を極限まで排するためトラックを使用した。ライダーも日本の雑誌のように単なる自転車好きのライターとかが走っているわけではなくて現役選手を連れてきた上でトラックを一定速度で走らせている。これほどの徹底ぶりで行われたテストなので、素人が適当なテスト結果を元にちゃちゃを入れ るのは“竹槍B29”の世界だ。匹敵できるのは唯一同業者だけだろう。しかしO,SYMETRICやRotorクランクの時は文句なしのマイノリティグッ ズであるこれらに関してわざわざ海外のテスト記事を引っ張ってきて載せた日本の雑誌が、これほど衝撃的なテスト結果、CampagnoloやSHIMANOのホイール こそ入っていないが有名どころのホイールがかなり含まれているテストの結果を何故黙殺しているのか非常に不思議である。日頃△△はホイールをよく分かってるだのもうちょっとテンションを上げたいだの☆☆はまとめるのがうまいだの「感想文」を垂れ流す“ホイールテスト”をよくやっているくせに、どうしたのだ。これはどう見ても大騒ぎするだけの価値があるテスト結果だぞ。
そんな俗物には期待する方が間違いと思われるので炎天下の駐車場に車内放置するとして、間違いないのは
「あるホイールが本当に効率いいかどうか確かめるにはあくまで個別テストしてみないとダメで、類似品の成績は全然あてにならない事が分かった」
とする以外にない結果だ。たとえばNimble Crosswindは一応3スポークのバトンホイールで、一見空力が良さそうだ。素人目にはたぶんCORIMA Turbospokeと変わらないように見えると思う(よく見ればあちこち違う)。が、テスト結果最下位。ドイツが誇るこだわり工房の一つであるTuneの“ファクトリー手組みホイール”であるOlympic Goldにも負けている。しかも数字は物凄く低く、ずば抜けての最下位だった。
かなり厳密に行われたテストだしテストの方法自体も私から見ればほとんど全面的に賛成できる内容なのだが、結果には俄には肯き難いものも幾つかあり、以前から考えていた「ホイールで本当に速度は変わるのか?」のテストを実際に行うべき時が来たと痛感した。少なくとも、ホイールを形とか外面的な数値だけで旧来の“ジョーシキ”に当てはめてもそんなものはまさにクソの役にも立たない事だけは白日の下に晒された。その意味では私もまだまだジョーシキに囚われているからこそ、この結果があちこち不思議なのだと思う。なんにせよ結論は「調べてみないと分からない」だ。全体的にスポークの少ないホイールが上位に来ている傾向はあるが、それならZIPP999と808の結果は逆転して然るべきだしCORIMA TurbospokeやTurbospoke+Discがボロ負けしすぎだ。
そんなわけで既にテストを開始しており、エッチラオッチラと坂を登っては降り登っては降りを繰り返している。テストルートのゴール地点(?)を過ぎたところでたま たま工事をやっていてガードマンのおじさんが立っているのだが、毎日のようにやってきて謎の行ったり来たりを繰り返し始めた変な自転車の兄ちゃんを見てここんとこの暑さにやられて変なのが出てきたと呆れているような気もする (苦笑)
勿論これだけ入念に金も手間もかけてやられたテスト結果なので、厳密性において個人で比肩するのは全く無理がある。当たり前だが15種類の比較など不可能だ。既に手放したホイールの性能についても惜しいことに謎である。それでもある程度結果が貯まってきたら傾向のようなものは見えると思うので、テスト結果として書く予定だ。
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コメント
ディスクもバトンも持っていませんがコメントさせて頂きます.
上記はTriathlon das Magazineの記事ですよね.ディスクはある程度の横風なら前進方向に力が働く,と聞いたことがあります.トラックではこのディスクのメリットが僅少なのでは?
BTRの風洞実験データ(ただしホイールの回転なし)では,風向0~20degで,Specialized Trispoke(古!),Zipp404, Cosmic Carbone等を比較した結果,TrispokeとZipp404が僅差の2位,1位でした.バトン系はある条件で優位なようですが,その空力性能はバトン形状・リム高・風向条件に強く依存する面が(当然ですが...)あると.Triathlon das MagazineでもXentis Mark1とCorima Turbospokeとの差が顕著ですが,風向条件を変えた場合にどうなのか,という疑問が生じます.
ちなみにCosmicは404に比して僅かにリム低・スポーク数少・ブレード形状スポークになっているだけですが,上記BTRのデータではZipp404に比して風向条件に対し殆ど差が生じていませんでした.バトン同士だともっと傾向が激しく違うのかもしれません.
ここはやはり風洞で,風速・ホイール回転速度・風向を変えて実験したデータが欲しいですね.Triathlon das Magazineの記事は各要素の影響を独立に把握しづらく,コンディション毎の使い分けを考えるには不足な点があるかと.
投稿: tarmac | 2006年6月 4日 (日) 08:05
時間が足らないのでまだ書けていませんが、ディスクホイールに関してはHED.が行った自社販売している全ホイールの風洞実験データに興味深い点ありです。これは現在進めているテストの中間結果と併せて書く気でした。
ディスクホイールは風向ゼロの時、実は他のホイールと比べても大して空力が良くないどころかよく調べてみると他のホイールに負けたりさえしています。ところが斜め前方からの風向の時に絶大な空力を発揮します。斜め前方からの風に対しての空気抵抗値でディスクホイールは他の形式のホイールと比べて物凄い差を生じていました。これはディスクホイールだけが持っている固有の特殊な傾向で、他のホイールは普通に風向比例していました。これがお聞きになった「ディスクはある程度の横風なら前進方向に力が働く」の元かも知れません。斜め前方からの風に対してディスクホイールのアドバンテージは尋常ではなかったので、これだけ差があると走り比べたらそれこそ押されているくらいに感じて不思議ではないと思います。
ライダーを乗車させての走行風洞実験データに関してはDiscoveryChannel Pro CyclingTeamがかなり詳細かつ徹底してやっています。様々な空気抵抗値も弾き出してました(ここでAMDのチップを載せたPCが活躍した事になっている)し、GiroのRev 6やBontragerのAeolus6.5、TREK TTX、LanceがTDF2005の初日TTで前輪に使った超ディープの3バトンホイールもこの辺から産まれたようなのでさぞかし美味しいデータを持っているのでしょうけど、公開してくれなさそうです。風洞実験は1日やると電気代だけで100万円以上飛んでしまうそうなので、大学であるとかの何らかの公共機関が行ったものでない限りそのまんまの公表は難しそうです。HED.が公表しているのもあくまで自社製品の優秀性のPRの為ですし。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月 4日 (日) 13:39
はじめまして。
ドイツの雑誌のテストは興味深いのですが、ドイツ語ってやつが難解で困りますね。
私も以前、自転車雑誌TOUR-magazinのホイールテスト結果を購入したことがあります。
その中の風洞実験結果では、スポーク本数の少なさが際立った効果を見せていました。ここでもVueltaとTempestはリムがほぼ同じなのに差が出てますね。また、テストを重ねたアイオロスがリア16本ってのもそういう訳でしょうか?
Discの特異性は面圧力が大きくなること(空気抵抗)と、帆の要素が働くこと(斜方向の揚力)が考えられる、と私は予想してます。
でも一番大事なことは、おっしゃるように実戦で「ホイールで変わるか!?」ですね。
私もいろいろ試してみて、ご報告したいと思います。
投稿: SORA | 2006年6月10日 (土) 10:03
はじめまして
これからもよろしくお願いします。
ドイツ語、私もあんまりよく分からんのです(苦笑)
長時間見ていると余計意味が分からなくなってきたりとか、苦労します。
イギリス語とフランス語ならまだ少々ナントカなるんですが。
Aeolusが加速時のたわみで明らかに不利だろうにリア16Hにしたのは紛れもなく空力向上を狙ったものに違いありません。組みも2本1組×8のモロにRolfパターン。
ディスクホイールの“揚力”は確かにあり得ない話ではないと思います。気流に対して斜めに板を向けるのは、乱流を生みますが最も初歩的な揚力の生み出し方ですしね。
是非ともお話をお聞かせ下さい。
私もエッコラセと頑張っております。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月11日 (日) 19:16
元物理屋からの補足です。
ディスクホイールの揚力に関してですが、ヨットが風上に向かって進めるのと同じ理屈ですね。このあたりのページに詳しいです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%83%E3%83%88
しかし、ちょっと問題があるのです。斜め前方からの風圧を前進方向の力にするには、ヨットの場合はキールが横方向に動かないための抵抗力、自転車の場合はタイヤの横方向のグリップで、横方向の力を打ち消すことになります。
ということは、自転車の場合、横風を受けたディスクホイールに付けられたタイヤの接地面には常にスリップアングルが発生し、転がり抵抗が大きくなってしまいます。
風洞実験をやる場合に、空気の流れと同じ速さでホイールを回転させているのでしょうが、そのときの三本ローラーのような接地面と実際の地面の接地面とではスリップアングルがあるときの転がり抵抗の増え方が違ってしまうことは想像に難くありません。
というわけで、ディスクホイールの風洞実験についてはよっぽど慎重に吟味する必要があります。自動車などとは違い、パワーの絶対値が低い自転車では、小さな誤差でも比としてはとても大きな値になることは十分にありえます。
投稿: Mantis | 2006年7月17日 (月) 18:47
Mantisさん、いつも明快な理論に裏打ちされたコメントありがとうございます。
おっしゃるとおりだと私も思います。自転車の風洞実験ってそんなに簡単じゃないよな、と思うんです私も。
たぶん本当はこんな装置を風洞に入れて実験しないとイカンのではないかと。
また「パワーの絶対値が低い自転車では、小さな誤差でも比としてはとても大きな値になる」は特にその通りだと、現在も続行中の空力テストでも痛感しています。個人レベルではどこまでが誤差でどこからが有為な差なのか判定するのが容易ではないなと。まとまれば公開しますが、科学的な実験結果と呼ぶには相当お粗末だなあと測定者自身が既に思っております。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月18日 (火) 12:52
なんだか上のほうのアーティクルが熱くなってるのでこっちでこっそりと。
Livestrong さんの方法は、決して間違ってないと思いますよ。もちろん誤差が大きくなる測定方法であることは間違いありませんが、我々が最も「速くなって欲しい」ときとほぼ等しい条件で測定が行われるわけで、その条件の下で我々がホイールの違いを感じることができる以上、数多い測定を繰り返していけば必ず有意な差が現れると信じています。
高価な器具を使った実験より、一見泥臭いような手法を執念深く使い続けたほうがいいということは、最先端の世界でもよくあることです(もちろんその逆に、いい機械を使ったらあっさり問題が解決しちゃう場合もあるのですが)。
少なくとも私は結果が出るのを楽しみにしてますですよ。
投稿: Mantis | 2006年7月19日 (水) 22:45
進行方向に対してホイールを傾けていられればセイリング効果もありそうですがね。実際にはホイールはまっすぐなわけで…
横風による空力性能の変化の原因としては、アスペクト比(縦横比)の違いではないかと愚考するしだい。
細長い翼(グライダー等)は空気抵抗が非常に低いのですがちょっとした迎角の変化で敏感に抵抗値が変わります。
つまり横風を受けると顕著に抵抗が増大する。
それに比較すると丸い円盤であるディスクホイールはちょっとした風向きの変化なら抵抗の増大があまり大きくないと。
真横から風を受けちゃったらメロメロなんですが。
元人力飛行機屋のタワゴトでした。
投稿: EMANON | 2007年12月 6日 (木) 16:49