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2006年6月18日 (日)

MAVIC iO

Io

究極のエアロホイール(MAVIC調べ)
 

イオ、と読む。アイオーではない。
由来についての説明を見たことがないが、木星の第一衛星を思い浮かべる人は人並みの天文知識があり、ギリシャ神話に出てくる乙女を思い浮かべる人はかなりマニアックなギリシャ神話ファンだと思う。正直、私は木星の第一衛星しか思い浮かばなかった。

5本あるバトンの1本にだけ貼ってある非純正リフレクトステッカーは自分で3M Scotchliteを切り抜いて作った。両面に同じものが貼ってあるのだが、貼ったときに正常になるように予めちゃんと曲面に合わせてあったりして自分でもアホちゃうかと思うほどきちんと作ってあり、そのせいであまりに手間が掛かりすぎて左右1セットで力尽きた。(追記。後に5本全部に貼る。流石暇人だ)

そんなことはどうでもいい。

なんだか凄そうなのは素人が見ても分かるらしく、その不思議な形のホイールは何の意味が?と聞かれた事は一度や二度ではない。

だがそんなこともまたどうでもいいのだ。

空力。

このホイールはとにかく空力イノチなのである。

iOはアトランタ五輪を制するため産み出された、本来トラックフィールド専用のホイールである。その目論見通り、トラックでそりゃもう破竹の勢いで勝ちまくっている。確かMAVICの大本営発表ではオリンピック及び世界選手権で最も表彰台に乗ったホイールがiOだそうだ。ホイール自体に思いっきり「TRACK ONLY」と書いてある。当然リムのブレーキ面をスムースにするような事は考えていないらしくバトンのところとバトンがないところでごく微妙に幅が違うため、フルブレーキングするとブレーキの効きが脈動する。ちなみに3カ所ある「MAVIC」ロゴはそのままだとブレーキングの邪魔になるので削ってやらないといけない。折角のMAVICロゴを削るなど、MAVIC真理教の方々からすれば不遜極まりない火炙りモノの行為だろう。

ちょうど自作ステッカー部をよく見て貰えば分かるが5本あるバトンは非常に複雑な翼断面形状をしており、しかも薄い。抜群に風を切りそうである。そして期待通りに切ってくれる。

バトンホイールの効能で

独特の風切り音がするので気分が高揚する

ような事を挙げる人が居る。実際、CORIMAの4バトンなどは乗ってなくても近くを通ったら「ブォン、ブォン、ブォン」と脈動性のあるうなり音を生じているのが聞こえるくらいウルサい。だがこのiOはその点で完全失格。全然風切り音がしない。

何故か?
乱流が発生していないからである!

風切り音とは詰まるところ空気を綺麗に“抜ける”事が出来ず乱流を生じてしまい、それが音波となって伝わっているだけだ。音は空気の揺れが耳に伝わって聞こえているのであり、空気の震動がゼロ(これは現実にはあり得ないが)であれば音は全く聞こえない。ましてや風切り音を生じているなど、ようはエネルギーをロスしている証拠が聞こえ続けているのであって、気合いが入るとか喜んでる場合じゃないんですよあなた!余計なお世話だけど。

iOで高速走行すると、普通のホイールなら「ごおおおおおお」とか「ざあああああ」とか色々聞こえてくる前輪からの回転音がまるでしない。それはもうブキミなくらい静かで、この静けさは他では経験がない。この無音回転はiO独特の世界で逆に病みつきかもだ。

そんなわけで、折角のiOなのだから秒6回は回したい。
秒6回転以上させられない人間には膨大な金の無駄。

ちなみに2083(19cタイヤ装着実測)×6×60×60=44992800(mm)

もともとは秒9回転以上させるために生まれたホイールなのだから。
いや、本当は秒10回転を超えられる人間向けに作っているんだと思う。そのくらいのホイールなのだ。

翼断面形状が産み出す空力効果の加減なのだと思うが独特の他にない癖があり「今向いている方向に必要以上に進みたがる」特性を持っている。この妙な癖はディープリムのスポークホイールにはない。つまり直進時はやたら真っ直ぐ行きたがって微妙な舵を切りにくく、舵を切ってしまうと今度は直進に戻るのに時間が掛かる。このせいでかなり難物。ディープリムくらいでヨコカゼがとか何とか抜かしている人間なら真剣にビビるであろうくらいとんでもなく神経質だ。強い風が横から来ると本当に一瞬で2mくらい持って行かれる事もある。iOに比べたらBORAやracingSpeedの扱いなど児戯にも等しい。

ちなみに回転バランスは標準だと「全然なっちゃいねー」状態なので、写真にも写っているがカウンターバランスとして鉛を付けた。カタログ重量は750gとなっているが、クイックなしタイヤなしバランス用のウエイトなし状態で771.0g実測。カタログ値+20gならMAVICとしては上等も上等だろう。

相変わらずMAVICは値付けが殿様商売なので値段分の値打ちがあるかどうかは疑問だが、iOが物凄くいい仕事をすることは間違いない。それは保証していい。50km/hを超えるくらいからグングン速度が乗る。この乗り具合は他にないもので、スルスルとスピードメーターの数字が上がってゆくさまは本当に気持ちがいい。

トラック用のホイールを道で使って大丈夫か?とか思う御仁も当然居るものと思われるが

知らん。

Own Riskってやつだ。真似を勧める気は全然ないが、私はまだ突っ込んだり死んだりしていない。それにトラック専用のハズのiOだがプロツアーではTTでちょくちょく使われているので、そんなに激ヤバくはないだろう。

従前いつもMAVICについてボコボコに書くのでMAVICが嫌いだと思われているだろうが、商売のやり方があざとく、しかもそのあざとい商売をこともあろうに有り難がって崇拝までする勢いのユーザーがいることに呆れ気味なだけで、何から何までダメとか思ってないし、MAVICは歴史的に見るとやる気出した時は急に凄い力を出すような側面があるので無視してはいけないと思っている。
どう考えても強度に根本的に無理があるものにチャレンジし次々改良を加えつつ売った末に最終的には改良不可能と判断して放り出した軽量リムの名作(迷作説も根強い)GEL280とか、電動コンポで良かったモノを力余って電波コンポにまでしてしまったせいで顔面から地面に激突するかのようにコケたMEKTRONICとか、必要以上に暴走する力まで出る。このiOも何の前触れもなく降って湧いたように出てきた。裏山で取れた珍しいキノコでも食べたのだろうか。

現状MAVICは基本的に「適当に見た目いじくって商売してても客が喜んでホイホイ買ってくれるやんけ。おいおいみんなマジなってんじゃねーよ、ワハハハ!」と思っているはずなので、やる気を出すのは当分期待できない。だいたいこれだけカーボンリムホイールが隆盛してきているのにCOSMIC CARBON PROの出来具合とか見ると尋常じゃない危機感のなさはある意味尊敬に値する。

この眠ってばっかりの巨人が次にやる気を出してiOを超えてくるのは一体いつになるやら。その頃、私はすっかりジジイになってそれらにふさわしくないライダーとなっているに違いないだろう。

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コメント

バトンってつけるだけで心が高揚しますよね。
いいもの使っている!みたいな・・・。
今は8速のスプロケがついているので早く十速のにして新しいチャリで乗りたいです。
自分のはスペシャの3バトンなんですが、あれって今のHED3と同じものなんでしょうか?

投稿: haLcyon | 2006年6月18日 (日) 13:36

コスミックカーボンSSCユーザーのSORAです。

見た目がかっこいいので履いてます。
(練習の時だけ、馬鹿ですねー。)

投稿: SORA | 2006年6月18日 (日) 22:29

二重にコメントですいません。

コスミックカーボンPROは、
長時間、ハードなブレーキに耐えるようにしたら、あのような重さになってしまったのだとか。
(マビックの営業の話の又聞きですが)

何キロも、猛スピードで下り続けられるように
とのこと。
もともと、マビックは重量軽視ですし。

で、くそ重たいコスミックSSCですが、
瞬発力>筋持久力な人には評判がいいですね。
ただ、軽量なだけが良いとも一概に言えないのかも。

投稿: SORA | 2006年6月18日 (日) 22:38

トラックの世界だとあんまり軽いよりは多少重い方が後半たれなくて良いって説もありますね。
ワールドカップを観てると日本選手はほぼ例外無く後輪はギブリですが。
(クソ軽いプロトンのディスクを使う選手は出てくるかな?)

ロードレースの下りのコーナーなら間違い無く重いより軽い方が良いはずです。(他の条件が同じと仮定)
重くてジャイロが利くとアンダーステア気味になります。
気になる人と気にならない人に分かれるようですが。

GEL280の車輪を借りたことがあるんですが、
あまりにもフニャフニャで軽量だけど漕いで重いというなんか変なリムでした。

少し前にALEX RIMSが販売していたスカンジウム製のハイプロファイルリムを狙っていましたが日本では流通してないようで諦めました・・・
スカンジウム製の軽量ハイプロファイルリムでチューブラー、24H、16Hってあったら結構面白いと思うんですが。

投稿: 大豆 | 2006年6月19日 (月) 23:20

haLcyonさん初めまして。
今後ともよろしくお願いします。
SPECIALIZED銘のリム部アルミ製3バトンはHED.3のOEMです。

SORAさん、それまさに「営業トーク」です。真に受けたらあきませんよ。いまMAVICであの重さを正当化するトークはブレーキネタ以外にないんです。見事に乗せられてますよ。きょうびカーボンリムでもものによってはジャックナイフできるくらいブレーキ効くようになってきてます。

同じ量のエネルギーを使用し同じ剛性と仮定したら、軽い方が到達速度は高くなります。重い方がいい説は完全な迷信です。スタートダッシュで1/1000でも縮めるためにあえて使う後輪用iOもあるくらいです。

皆さんが思われてるほどプロは機材に詳しくありませんし興味も持っていません。彼らは走ることのプロで機材のプロではないからです。ウルリッヒみたいなのは例外です。シマノでは選手の話をあまり聞き過ぎるな、の話があるくらいです。何故なら彼らは現状与えられた機材の中で頑張るのが自分の仕事だと考える傾向が強く「ここをこんな風にしてくれればもっと良くなる」ような事を考える選手は少数派なのです。
なにか直して欲しいところはないかと選手に聞いてしまうと「別にないよ。故障しないで動いてくれればいい」が多数派意見なんです現実には。ところが実際に改良した製品を使わせてみると「これはいい!」と喜ぶのがほとんど。そんなもんなんです。

重くて慣性モーメントが大きければ速度が落ちにくいのは確かですが、最初に加速するのは他人や機械がやってくれるわけではなくて100%自分持ちなので重い分だけ最初にエネルギーをロスしています。その事を忘れて速度が落ちにくいとか喜んでる場合じゃありません。また重いと反応が鈍くなるのでペダリングのギクシャクが誤魔化される傾向がありますがこれもエネルギーを2重にロスしているだけの事で、スムースになったと喜んでいる場合ではありません。

重いことのメリットは、負担が増えるので負荷トレーニングとして使える事と、直進安定性が向上することです。

あとは同じ剛性なら軽い方がどこから検討しても有利です。GEL280がまずかったのはただ軽いだけで剛性がめちゃくちゃだったのに尽きます。重量ホイール信者が生まれたのは、時代の技術を超えた軽量に果敢にチャレンジしたGEL280の大いなる失敗が印象深かったせいじゃないかと私は思ってます。軽くても剛性が落ちたらそりゃあ使いにくいです。動力伝達部において不必要なたわみを生じると猛烈に乗りにくくなります。

重いホイールを信奉している人に軽くて剛性のあるホイールを使ったことがある人はあまりいません。これは大変大きなポイントだと思います。

現状、簡単に手に入るスカンジウム配合アルミ合金製リムはSHIMANOの7801SLに使われているものくらいですね。マグネシウム合金製リムも輸入が始まるようですが、リム重量290gにしてハイト38mmのカーボンリムが売っている時代ですから、競争力のある商品を出すのは容易ではないと思います。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月20日 (火) 13:18

イオなのかイオカステのことなのかどっちかわからないけど、どっちにしても悲劇の女性ですな。。。

ギリシア神話好きとしてはたまらないネーミング。。。

投稿: あーこ | 2006年6月20日 (火) 14:16

どーもです。
イオにしろイオカステにしろロクな運命を辿っていないので、MAVICがなんでオリンピックに勝つために産み出したホイールにこんな縁起の悪い名前を付けたのか謎です。
イオなんて女神と美しさを競った美少女ですけど最後はに変えられてしまうわけで、およそ速そうな名前じゃないんですが(汗)

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月20日 (火) 15:15

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