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2006年6月 4日 (日)

○○○だからさ

現在、一般に購買できるロードシューズとして最高のモノはLAKE CX400だと思う。

Cx400

主に二つの理由があるが、やはり「足の形に合わせて成形できるソール」を世界で唯一採用している点がほとんど全てだろう。

CX400がショーでデビューを飾った時、この姿がなんせ衝撃的だった。

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入っているのはオーブンだ。
もちろんだが、いくらCX400がアッパーにカンガルー皮採用でも最悪の場合焼いて喰えますパフォーマンスをやったわけではない。

CFC Systemと名付けられた特許のカーボンソールは80℃で柔らかくなり、冷えると固まる。オーブンで5分間熱した状態で足を入れ、外から押さえて自分の足に完全に合わせてしまおうとするものだ。しかも CFC Systemの小さくないメリットとして、何度も繰り返すことが出来るそうだ。
この手の個別足型成形システムはスキー靴だと20年くらい前からあるが、一発勝負であり、もし失敗すると何万円がぶっ飛ぶのが常だった。いくらなんでも50回も100回も成形を繰り返すのはダメだろうが、やり直しがきくのは精神的に随分違う。

CX400はソールの形が独特だ。

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カカトのかなり上までソールがガバッと回り込んでいる。折角成形できるようにしたのだからとカカトを全部ホールドできるようにしてあるわけだ。昔からの定番で「シダス」の名前で知られる熱成形インソール「コンフォーマブル」との違いは、

  • ソール自体が足の形に合うので、ソールとインソールの間に“建て増し構造が発生しない。成形インソールを使うと当然ながら成形されたインソールはシューズとの間にかなり空間を発生している(本来足裏とインソールの間に発生する筈の空間をそれで無くしているのだから当然)が、CX400にはこの無駄な空間がない。
  • コンフォーマブルもカカトは重視しているが、根本的にどこまでいっても底(ソール)のフィット。だが、CX400はカカトの上方部分まで完全にフィットする成形を初めて可能にした。
  • 当然ながらインソールは紙のように薄くて済む。

スキー靴なども最近のフォーミングではカカト部を凄く重視しており、微動だにできないほど ピッタリと成形される。カカトのフィッティングは靴に於いて大変重要なポイントだ。何故ならたとえば足の甲。多くの人は硬いと思っている。ほとんど骨だからね。しかしこの小さい骨を多数組み合わせて出来上がっている存在は、体重が掛かっている時とそうでない時を比べただけでももう幅や形が違うく らい実はグニャグニャだ。このため仮に体重が掛かっていない状態に合わせてピッタリの靴にすると、高い強度の運動をした時に内部で骨がゴリゴリ擦り合わ されるような状態になって炎症を起こしたりする。私も経験があって、その日たまたま靴ひもをわずか締めすぎてしまった状態で20km走ったら、見事に足の 甲が炎症を起こして2週間は歩くのにも苦労した。原因は横着こいて仰向けに寝たまま靴を履いたせいだ。そのため体重が掛かっていない状態で靴ひもを締める愚を犯してしまった。
足に多少詳しい人なら常識だが朝と夕方で全長まで変わるくらい人間の足とは形が一定しておらず、中途半 端にフィットした靴ほど一歩間違えば足を破壊する凶器となる。ところがカカトだけに注目してみると、面白いことにほとんど変形せずサイズも変わらない。このた め、人間の足で「靴をガッチリとフィットさせても問題ない場所」は唯一カカトだけなのだ。カカト重視のフィッティングはバイオメカニクスを考えると実に正し い。

「靴のカカトを踏む運動選手に一流はいない」

なる言葉があるのだが、こ れは私も全面賛成だ。靴においてカカトは一番大事な部分なのである。

ちなみに私はスキー靴 ではフォーミング(成形)インナーの靴にコンフォーマブルのインソールを使用しサイクリングシューズもバキュームで作ってもらったやはりコンフォーマブルのインソールを使 用している。腕のいいお店で作ってもらったインソールは全然違う。ずっと使っていると分からないが、標準の何の変哲もないインソールに戻してみるとその違 和感と隙間だらけの足裏に愕然とさせられる。

CX400のアッパーは前述の通りカンガルー皮採用のしなやかなもので、あくまで足と一体化するフィット重視。SHIMANOのシューズのようにガチガチのアッパーを採用することで無理矢理足を引っ張りあげ“引き足だと悦に入っているような強引なペダリング向けのシューズではない。だからストラップもバックルやマジックテープ式ではなく、あちこちに通してある細い紐をラチェット式リールで締め上げてゆく事で各部が自動的にに締まりフィットする、SIDIPEARLiZUMiがちょくちょく使うモノフィラメント方式だ。SIDIはtecno(テクノ)PEARLiZUMiはボアレーシングシステムと 呼んでいる。調べたわけではないがこの「レーシング」はRacing SystemではなくLaceから来たLacing Systemだと思う。CX400の場合、締め方としてはPEARLiZUMiとほぼ同じ。モノフィラメント方式はガッチリと締め上げるのには向いていないが前述の通り靴はガッチリ締め上げる方が 間違いだし、脱ぎ履きに時間がかかるのが玉に瑕だがフィッティング性能が高いことで前から定評がある。足にフィットすることを最重視して作られた CX400らしいチョイスだと思う。

CX400には、フィット以外にも大きな長所がある。驚くほど軽いことだ。
片足235gしかない。
これは一般市販されるロードシューズとしては最軽量クラスで、DMTの一番軽いモデルKYOMAが同じ235gだ。
軽量を謳うNIKEのPoggio 4 ULが、計った人間の話ではほとんど同じ重さで片足235gほどらしい。ロー ド用シューズはペア600gつまり片足300g未満だと相当に軽い部類に入る。調べてみたら分かるがペア600gを切るシューズは少なく、ペア500g以 下となるとほとんどない。ペア470gの軽さは相当ずば抜けている。しかもCX400はKYOMAやPoggioと違って成形シューズなのだ。
シューズはホイールほどの直径はないにしてもクランクと同じにひたすら回転させ続けているので、重い軽いは当然のように影響がある。TIMEが前に試算したところでは、ペダル及びシューズの合計が100g重くなった場合、走行時間(忘れた。確か4時間か8時間かのどちらかだったと思う)によっては2トンのものを1m持ち上げるくらいの力をロスするらしい。本当かよ?と思うが参考してもいいだろう。実際トップレーサーでもランス・アームストロングなどは靴の重さにすごくうるさかった事で知られており、登りステージでは特に軽量な一発勝負用の特製シューズ(見た目は違いが分からないようにしてある)を使用していた。靴はUCIの最低重量規定6.8kgに含まれないので、いくら軽くても構わない。異例の高回転ペダリングで世界を制したランスの事だから靴の重さはかなり気になったのだと思う。

軽量のチャンプ級は片足200g以下のシューズを幾つもラインナップするROCKET7あたりが定番で、ここは足型を取ってもらった上で製作するRX PRESCRIPTIONが「超軽量でしかも足に完全にフィットする」事でこだわりの面々の間で有名だが、ROCKET7の契約スポーツドクターにマイ足型を作って貰った上で靴を製作する、そのあまりに超弩級に本格的すぎる真のフルオーダー方式ためアメリカまで行かないと作ることができない。日本人には敷居が高すぎる。RX PRESCRIPTION値段もかなり強烈に高いが、そんな事よりアメリカまでの旅費の方が遙かに高い。私はラーメンを食べるためだけに飛行機で北海道に日帰り旅行した事がある豪快な人物を知っているが、RX PRESCRIPTIONを買うのはそれに近いノリだ。それがCX400だと靴さえ買えばいいのだからこれは恐ろしいまでにエポックメーキングである。

さて、CX400はこのように大変優れたシューズなのだが、大きな問題点が一つある。

もうみんなとっくに気が付いている筈だ。

激ダサい。

LAKEのサイトを見る限りではBlackもあるようなので黒だとかなりマシになるとは思うが、WhiteやSilverはちょっと見られたもんじゃないだろコレ。画期的なアイデアを実現した時点で燃え尽きたのか知らんが、けっこうな金出して、このルックスの靴買うのは相当勇気要るよなと思う。私も最初見たときはその猛烈なダサさに「うは〜」と声が出たくらいだ。モノフィラメント締め採用同士で比べても、日本のPEARLiZUMiがダサいことでは今更誰も驚かないがSIDIとは偉い違いで、もうちょっと何とかならなかったのかと疑念を禁じ得ないデザインだ。お約束の言葉はあるにせよ、なんだかなぁ。

久々に「画竜点睛を欠く」が見事にハマった例を見た気がする。LAKEがメジャーシューズメーカーになれない原因はこのへんにあるのではないか。

「LAKEは素晴らしい靴を作った。しかしとんでもなくダサくなった。何故だ!」

「LAKEだからさ」

「何故だ!」

「LAKEだからさ」

うぅーむ。

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