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2006年6月17日 (土)

ライダー=自転車のエンジン

パワートレーニングについてのまともな本はこれくらいじゃないだろうか?

トッププロでは急速に導入が進んでいるパワートレーニングだが、まだまだ未確立な部分が大きいトレーニング方法ではある。

必要な機器が高くてあまり一般的ではないからだ。
なにしろSRMに至ってはSRMの代金でけっこうなロードバイクが買えてしまうしBORA ULTRAであるとかHYPERON ULTRAを新品で買ってお釣りが来る。

しかし今まで行われてきたトレーニングとは全く別種の観点が導入される点で大変意義深い。
「計測機器が正確なら」の条件付きだが、長く行われてきた心拍数主体のトレーニングと違って、パワートレーニングでは

アンタの出力は何W

とライダーの能力が白日の下に晒される。車やバイクであっても自分の乗っているそれらの実馬力(カタログ値ではなく)を知っている人間など余程のマニアでなければまず居ない。素人では事実上自力計測不可能なせいもある。それを考えると、何百万円も投資しなくてもエンジン(=乗っている人間)の実馬力を計測することができる自転車競技は実は「数あるスポーツの中でも最も安価に実馬力計測が導入できるスポーツ」なのだ。ランニングや水泳でパワートレーニングを行おうとすると費用的にとんでもないコトになる。

実馬力と来ればPowerTapなどは後軸で計っているので車やバイクで実馬力を計るのに使われるシャシダイナモにかなり近い計測方法と呼べるかも知れない。たとえば正確であればあるほどSRMは必ずPowerTapよりも僅か高いパワーを記録する現象が知られているが、これは実は「そうでなければおかしい、当然のこと」だ。何故ならスパイダーアームで計測するSRMではチェーン等のドライブトレインによる動力損失込みの計測値であり、PowerTapではそれらを経て最終的に後軸に加わっている力が計測されるからだ。SRMは、エンジンのカタログ馬力に喩えれば「ネット値」だろうか。

トップレーサーの個人タイムトライアルなどではもうトレーニングどころか実際に走行にまでパワー計測が導入されつつあり「1時間の個人TTにおいては、平均380Wだとゴールまで続かないので平均370Wを保つように走り続ける」やりかたで走るのは珍しくなくなってきている。

Armstrong_1

モゼール以来ずっと行われてきた心拍数トレーニングは「その人の能力向上」が主だったが、パワー計測トレーニングは「その人が、どれだけの出力をどのくらいの時間維持できるか」を計ってしまえるため、坂だからウンヌンとか向かい風だからカンヌンがなくなる。トレーニングで計測した結果として2時間保てる最高出力が250Wなら、坂でも平地でも250W以上で走り続けたら2時間もたずにガス欠するのは走ってみなくても分かるわけだ。パワー計測を用いての走行は、見せかけの速度や気分、体感に騙されない。

本当に結果を出したいなら、避けては通れない道だろう。

でなければトップレーサーの間でこんなに物凄い勢いでパワー計測トレーニングが増えたりしない。

「平均出力が20W上がった」

など、パワーメーターを用いた科学的トレーニングをしなければ永遠に分からない事だ。5Wだろうと10Wだろうと紛れもなく出力増に違いないが、そのくらい少しだとちょっと向かい風だと簡単に打ち消されてタイム的にはむしろ遅くなってしまう程度の向上である上に、追い風ならニンゲンの出力が一切向上していなくても何十W分も簡単に速くなるので、パワー計測していないと増えたことに気付かないし、逆に減ったり変わっていない事にも気付かない。

目分量でやっても勝てる超人なら必要なかろうが、なんせツールやジロを獲るクラスの選手でもやっているのがパワー計測トレーニング。もっと遅い人間がもっと効率の悪いトレーニングをしてどうやって速くなれる気なのか意味不明だし、カンで走ってグランツール狙える人間なら、こんなBlog読んでないわ。

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コメント

ペーシング用途で使う選手が本当に目立つようになりました.例えばドーフィネTTのライフェイマー,05(上)から06(下)で変わったのは,腕の位置,前輪,そして....
http://grahamwatson.com/gw/imagedocs.nsf/images/05dauphineSt3/$file/9.jpg
http://grahamwatson.com/gw/imagedocs.nsf/images/06dauphineSt3/$file/11.jpg

感覚に依存せず定量的にペーシングできることに加え,数W単位で微妙にペースを変化させる(e.g., 下り区間では-10W/登り区間では+10W)テクニックも使えることが大きいんでしょう.

パワーベースのトレーニング方法について言えば,「Testing is training, training is testing」という一言に代表されるでしょう.すなわち,レースやトレーニングにおいて発揮した出力値・出力特性から次のトレーニングを検討し,さらに出力値をそのままトレーニング負荷基準として利用,結果をレースやトレーニングでまた確かめて...という「PDCAサイクル」の確立が,心拍ベースに比して一貫した基準の導入により容易化されます.このため効率よく狙ったパフォーマンスを向上できると言える訳ですね.

さて,Hunterの本は「パワーをトレーニングに生かす」方法が書いてある訳ですが,「どのような人がどのようなトレーニングを行えばよいか」「トレーニングプランはどのように作るか」といった点はスコープ外であり,別途Frielの本などを参照する必要があると思われます.

投稿: tarmac | 2006年6月18日 (日) 01:01

どうもです。
相変わらず鋭い。

ライフェマー、ポジションは腕以外もめちゃめちゃ変化していますね。05では上からベチャッと潰されたようなポジションだったものが06で一気に前乗りになってる。

05の自転車はほぼ間違いなくAndy Walser作ですね。そして06もたぶんそうだと思います。

ペーシングにパワー計測を導入するのは物凄く効果的だと、私レベルでも思います。つい先日eBayに78DURA-ACEベースのSRMが出てましたが、175mmはちょっと長いよなぁ…と思ってたら落札できませんでした。ハハハ。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月20日 (火) 12:39

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