« ※最大カテゴリの移行完了のお知らせ※ | トップページ | ■画面デザイン変更のお知らせ■ »

2006年6月 2日 (金)

ダンテ設計!?POLAR PowerKit

私のV2 BOOMERANGは、当初からPOLARのPower Output Sensorを装着している。
通称「パワーキット」
出力計測装置だ。

POLARのS625XもしくはS7xxシリーズと組み合わせる事で機能するこの装置は、自転車の出力測定装置としては最も安価な商品だ。

自転車用の計測装置としては

  • クランクのスパイダーアーム組み込み型のSRM
  • BB軸組み込み型のergomo
  • 後輪ハブ組み込み型のPowerTap

“御三家”のような存在になっている。3つの中で1番安いのはPowerTapだが、それでもPower Output Sensorの2倍以上になるなど、この分野でPower Output Sensorの安価さは抜きんでている。POLARとこれらの決定的な違いは、上記3製品が全て軸に加わった力を直接計測していて違いは計測場所なのに対し、POLARは直接計測ではなく、チェーンステーに設置した本体内蔵のセンサーとRDに設置したセンサーでチェーンの張りと動きから加えられている力を推定している点だ。

長所は

  1. 安い
  2. 計測項目が多彩
  3. 使う機材への制限がない
  4. 有線式なのでノイズの影響をほとんど受けない

が挙げられると思う。

値段は上記の通りでダントツに安いと評しても良い。計測項目も妙にマニアックで、ペダリングの「むら」を計測するペダリングインデックスや、ペダリングの左右差も数字として上がってくる。そして特定の機材に組み込んでしまう方式ではないため、機材の使用に制限がない。SRMはクランクに、ergomoはBB形式に、PowerTapはホイールにそれぞれ制限がある。最大長所?としては、有線式なので当然ながら距離計測精度が大変高く、無線式が誤作動することで有名な電車の高架下通過時なども、心拍は異常値を記録 したりするが距離計測が停止したり逆に停止しているのに勝手に計測を開始したりするようなトホホ事態がまずないのが挙げられると思う。ポラールのS7xxシリーズは無線式の中では最もノイズに強い部類に入るのだが、それでも電磁波をバリバリと出すモノが直近にあると当然誤作動率は高まる。それがPower Output Sensorを使うと新幹線の高架横を走り続けても距離や速度が正常に 記録される。有線式ならではの長所で「POLARを有線サイクルコンピューターとして使える」のは評価していいメリットだと思う。有線だけあって距離計測精度の正確さは気持ちいいレベルですらある。

短所は

  1. 記録時間があまり長くない
  2. 組付けが難しい
  3. パワー計測精度が著しく低い
  4. 機械的信頼性が低い

となる。

記録時間が短いのはPower Output Sensorの問題ではなくPOLAR心拍計のメモリが少ないことが原因だが、全項目を5秒間隔で記録すると5時間記録できない。他社では2秒や1秒間隔で記録できるものすら登場しているのだが、5秒間隔でも5時間もたないのだから短くできるわけがない。

組付けの難しさは精度の低さとも関係するのだが、このPower Output Sensorはケイデンスセンサーとチェーンテンションセンサーを兼ねている本体部の組付け位置が恐ろしくシビアで、ミリ単位で場所を変えただけで弾き出すパワー計測値が変わってしまう。場所を上下させてみると分かるが、取り付け位置の変更で計測値を変えるのは簡単どころか一度動かすと同じ値を出す場所に戻すのは難しいくらいだ。場所によって計測むらが起きやすい場所と起きにくい場所もある。チェーンで計っているのでチェーンラインとの相性も物凄くシビアで、簡単な話、平坦路を50×25のギアを用い100rpmで走行するのと36×18で同じく100rpm回して走行するのは本来同じ出力計測結果になるのが道理なのに、現実にはけっこう違うパワー計測値が出てしまう。

この組み付け問題はかなり根が深く、適当に取り付けると30km/hにも満たない走行速度で1000Wを超え続け40km/hも出すと2000Wを超えるようなトンデモ数値まで出るようになったりする。この時、走っていてあまりにトンデモなパワー計測値を見た私は、俺はいつの間にスーパーサイヤ人になった?と笑い出してしまいまともにトレーニングにならなかった。自転車用パーツとしてライダーを吹き出させる事が出来る装備はかなり珍しいと思う。かと思ったら44〜46km/hで連続走行している場面で180〜220W程度で走れている事になったりする。そんな程度の力で45km/h出せたら誰もヘド吐きそうなくらいトレーニングして苦労してないので、かなり鼻白む計測だ。つまり取り付けの良否によってそのくらい計測値が右往左往してしまう。

実は本体の位置設定さえ最適であればSRMやPowerTapと比べて10%程度の誤差でパワー計測できるくらいのポテンシャルを持っている(腐っても計測器なのだから冷静に見れば「当たり前」の事かも知れないが)ことは海外のマニアックなユーザーが軸計測型と突き合わせながら最適取り付け位置を求め膨大な手間をかけ試行錯誤し、最終的に本体部へ下駄のようなアダプターを噛ましてベストポジションを出した結果確かめられている。だが、これはとりもなおさず「取り付け位置こそが最も大事なのに、Power Output Sensor単体で最適な取り付け位置を求めるのは不可能」である事も同時に意味しており、計測器なのにまともに作動させたかったらもっと高い他の計測器が必要とは、間抜け極まる話だ。

絶対値として話にならんのは勿論、前述の通り同じ場所を同じ速度で走り続けても選択しているギアが違うと違うパワーが計測されるのはまさにげんなりで、これでは目安として使うのも難しい。苦労して試行錯誤した挙げ句、ある程度納得の行く数字が出るようになっても、坂を登っているときに明らかに過小評価されたパワーを計測する傾向がある。心拍180くらいでまさに必死こいて登っているのに110Wとか、人をなめるのもたいがいにしとけよと思うようなとてつもない数字が出て普通だ。最大心拍の90%を超えているのにLSDの時よりも出力が出ていない事になる。むちゃくちゃだ。パワー計測することとは仕事量を数値化して検討するためなのだから、絶対値としての正確さはともかく、せめて同じ仕事量の時は同じ数値が出てくれないと正確さ以前の問題としてパワー計測の体をなしていない。

機械的信頼性だが、Power Output Sensorは有線式で、通常は無線サイクルコンピューターとして使用するPOLARのスポーツ心拍計もPower Output Sensorで使用する場合は有線サイクルコンピューター化して使うことになる。このデータ伝達線が物凄いボトルネックで、やたらめったら断線する。自分で修理すると分かるのだが驚くほど細い芯線を使用しており、僅かのストレスでも断線してしまう。なにしろ手で引っ張るだけで千切ってしまえるくらい脆弱なのだから恐れ入る。私は1年強の使用期間で既に4回の断線を経験しその都度コードの再接続補修を行っており、これで電子工作の心得が無かったらあまりの断線の多さにとっくに放り出しているに違いない。同じ場所ばかり切れるならともかく色んな場所で多種多様に切れてくれるものだから、今や私のV2 BOOMERANGに装着されているPower Output Sensorのケーブルはその大部分が後から覆ったケーブル保護材に覆われている。

断線するその部分を繋いだ上で再度断線しないよう保護材で覆う

を繰り返すうち、そうなった。場所によってはステンレスの針金を沿わせた上で保護材を巻きケーブルをスムースに曲げ芯線にストレスがかからないよう工作までしている。そこまでやったら切れなくなってきたが、そんなにまでしてやらないと故障しまくる機器など、自転車用として明らかに役者不足である。実験室の中で動けばオーライとはいかんぜよ。なお、意外なウイークポイントとしてはPower Output Sensorと本体とが信号をやりとりするための接点。これは押しつけているだけなのだが、心拍計側がわりと簡単に錆びて作動不良の原因になる。特にサイクルコンピューターとしてではなくスポーツ心拍計として腕に巻いてランニングしたりする人は汗で錆びやすいので、時々接点を掃除した方がいい。私もそうなので、ちょくちょく掃除している。

他の「きちんとした」計測器つまり軸計測型の実計測を行うものと突き合わせ入念なセッティングを行って最適な組み込みがなされていない限り、Power Output Sensorを絶対値の計測器として用いるのは全く馬鹿げている。しかしこれからPower Output Sensorを買おうとする人間が高価な軸計測型パワー計測器を所持していると考えるのは全く非現実的な話で、軸計測型を既に持っているのにわざわざ金を出してPower Output Sensorを買う理由を探すのは難しい。POLARを併用するとしても普通に無線式で使えばよく、Power Output Sensor自体の重量が合計300gほどもあるのでわざわざ金を出して自転車を重くする理由がない。

以上、購入を検討している人は参考にして欲しい。
間違ってもこれで出力が本当に「計測」できるなどと思わないように。
自己鍛錬のための気分高揚グッズとしては、使えないこともない。

これがPower Output Sensorの現実である。

買おうとしている人には

「一切の希望を捨てよ。汝、この門を通る者」

と書いていい加減かも知れない。

|

« ※最大カテゴリの移行完了のお知らせ※ | トップページ | ■画面デザイン変更のお知らせ■ »

コメント

結構厳しい評価ですね。
自分の場合、パワーの絶対値はともかく、相対的なパワーの
チェックとしてしてはまあまあ使い物になっている感じです。
1年以上使っていますが断線もしていません。

でも確かにセンサーの取り付けがシビアですね。
リアがローorローに近いチェーンラインでパワーが極端に
減るようなら、シートステイのセンサーの位置をもっと
上げる(チェーンに近づける)必要があるかもしれません。

あ、ポラールやキヤノトレの社員ではないです。

投稿: Yanagisawa | 2006年6月 4日 (日) 01:55

PowertapとPolarの価格差は,米国ではぐっと小さくなる点,万一の場合にもホイール体のままSarisに送りつけて,速やかに修理・校正が可能な点から,米国在住者ならPowertapは結構良いですね.

私は日本からなので,(めったに無いですが)Sarisに送るときはハブだけにします.使い始めはノウハウが無かったですが,分かってくれば結構ロバストに働いてくれますよ,Powertap.静荷重で校正しても,2,3%程度の誤差しか出てきません.ディスクホイールユーザにはNGですが...


>> Yanagisawa様,横からコメント失礼いたします.

Polarは「相対的なパワーのチェック」になっているかどうか,その証拠が無いのです.SRMやPowertapは故障しない限り年5%も測定値が変動しないことが分かっています.また,ずれていても静荷重により確認可能です.

しかしPolarは測定値が取り付け位置に依存し,その変動幅が分かりません.時計で言えば「月差±xx秒」の保証が無いようなものです.更に,静荷重によるずれの確認が不可能です.

「ローに近いチェーンラインでパワーが極端に減る」というのも,どれくらい減るのか確定的でありません.パワー基準の測定・トレーニングでは時間平均値が重要となりますが,このように不確定要素が大きいと,時間平均値に必ずしも小さくない影響を与えます.

例えばパワーの1時間平均値について言えば,ある程度のサイクリング経験者ならば,1ヶ月あたり高々数%~十数%の向上しか望めないでしょう.その向上幅を覆ってしまうような誤差・非定常性が生じるようなパワー測定器は,パワー基準の測定・トレーニングのために必ずしも十分ではないと考えます.

投稿: tarmac | 2006年6月 4日 (日) 09:01

Yanagisawaさん、どうもです。

私が何か書く前にtarmacさんに端的かつ見事にまとめていただいてしまったので家主の出番は事実上消失しているのですが、黙っているのもなんですので今頃登場させていただきます。

心配していただかなくてもポラール関係者の方ではないのはよく分かります。何故ならポラールが、この装置を実際に使用してみてどうかユーザーから聞いていない筈がありません。

私の場合、現状インナーローにするともうセンサーにチェーンが擦るんです。これ以上位置を上げることはできません。擦ってしまう関係で、インナーローは非常事態以外では使いません。
逆に書くと、ある程度自然な数値が出る位置を探していくうちにインナーローだとチェーンがセンサーを擦ってしまう位置まで持ち上げる結果になりました。

tarmacさん、どうもです。
相変わらず鋭い筆致で感服しました。
精度話に関しては全面的に同意させていただきます。やはりPower Outpt Sensorは「分銅のない天秤ばかり」のようなもので、どっちが重いかには使えても計測には使えません。

そうなんですよ!PowerTapはディスクホイールを使いたい私には今のところ選択肢に入らないのです。
そのうちZIPPあたりとコラボで出そうな気がしなくもないのですが…。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年6月 4日 (日) 13:10

はじめまして。東大自転車部の高木と申します。
ブログをいつも楽しく拝見させていただいています。

ポラールパワーキットを使用しているのですが、断線に悩まされています。本稿で紹介のあった断線の修理の仕方を教えていただけないでしょうか?
公開が差し支えあれば
(メールアドレス割愛)
までよろしくお願いします。


ポラールパワーキットはホイールを選ばず使用できるということで、特に大潟村での学生個人TT、大学対抗チームTTでのペース配分などに重宝しています。もちろん普段の練習のお供としてお世話になっています。自ら断線問題を解決したいと願っております。

投稿: のり | 2009年2月28日 (土) 22:36

のりさんはじめまして。
これかもよろしくお願いします。

これと示せる修理方法なほど偉いモノではありません。

「外部の配線を、もっと太い芯線を持つケーブルでやり直してしまった」だけです。
私は直流式の半田ごてだとかセパレート式の自動半田吸い取り機を持っているくらい電工好きなので、そのくらいはやる気になったらすぐやってしまいます。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2009年3月 3日 (火) 18:50

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ダンテ設計!?POLAR PowerKit:

« ※最大カテゴリの移行完了のお知らせ※ | トップページ | ■画面デザイン変更のお知らせ■ »