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2006年7月20日 (木)

ボーネン無念のリタイヤ

2006年ツール・ド・フランス、QUICK・STEPのトム・ボーネンが遂に未勝利のままでリタイヤとなった。

アルカンシエルを着て乗り込んだ今年は、去年「着たままでツールを去った」マイヨ・ベール(スプリント賞)の最右翼かと目されていただけに、1勝も得られずにリタイヤとは寂しい結果となった。

クライマーはなるものだが、スプリンターは産まれてくる

そんな言葉がある。

そのくらいスプリンターには天与の才能が必要とされる。

結局100m走の速い遅いと似たようなもので、そこらへんの草レース程度なら努力によるところもでかかろうが、世界の舞台ともなると才能がない人間が血の小便出るくらいトレーニングしても最期のところで頭打ちになってしまいダメなものはダメらしい(だいたい世界の舞台ともなると努力していない人間などいない)。筋肉がつきやすいつきにくいは明らかに個人差があるので、物凄いビッグギアをがんがん回して物凄いスピードでゴールに突進するための丸太のような脚は、誰でも努力さえすれば獲得可能なものではない。私もスプリンター達には単純な憧憬がある。自分にない才能だからだ。

スプリンターが人を熱狂させるのはたぶんそんな「最も才能を必要とされる」理由もあるんだろうなと思う。選ばれた人間のなかの、さらに選ばれた人間。

そして彼らが最も単純かつ明快に訴求する「勝つ」人間であるのも大きいだろう。

スプリンターがゴールに物凄いスピードでグワーっと突進して、ゴールラインを切ってガッツポーズ。このシーンはまさに自転車ロードレースの華だ。みんなどうして分かるんだと思うくらい、僅差勝利でも勝った選手がガッツポーズしている(もっとも時々間違ってガッツポーズしてしまうトホホな選手もいる)。憎たらしいくらい強い選手だと、ゴールのけっこう手前からもう手放しでガッツポーズしながらゴールだ。一番格好いい勝ち方で、まさに神に選ばれた才能を持つ人間だけがこの格好付けを許される。

実 は手放しガッツポーズはルール上は違反行為だったりするのだがプロに限って暗黙のお約束で黙認されている。ヨーロッパではアマチュアレベルでのレー スだとこのへんすごく厳格で、いちびってプロの真似をして手放しガッツポーズゴールをかかますと降着の最下位扱いになったりする。両手を一気に放してハンドルを持ち替 える事すら禁止だったりする(片手づつ持ち替えないとダメ)。

まあ、それはともかく「勝ち」をもぎ取るため猛烈な突進力を発揮する天才達を勝たせるため、スプリンターを擁するチームは作戦を立てて動く。折角の突進力を無駄遣いさせないよう、アシスト陣が「列車」と呼ばれる隊列を組んで風除けになりゴール前まで引っ張るのがよくある光景だ。今年のツール・ド・フランスでもQUICK・STEPがボーネンを勝たせるために列車を組むシーンがちらほら見られた。

しかし今年一番大暴れしているのは、昨年ゴール前スプリントの途中で横の選手に頭突きをカマした門で降着になりマイヨ・ベールを逃したロビー・マキュワンである。マキュワンの去年の頭突き降格は、その見事な頭突きぶりと共にかなり話題になった。しかし今年は既にステージ3勝し、現在順調にマイヨ・ベールをキープしている。面白いことにマキュワンは「列車」を必要としない単独勝負ができるスプリンターで、このあたりは天性の勝負勘を感じさせるところだ。他のチームの列車にコバンザメして結局勝ちをさらったり、マキュワンのスタイルは「なんでもあり」の無手勝流。ステージの最後に集団からスルスルっと抜け出すタイミングはまさに「天才」の一言に尽きるものを感じさせ、凄まじい圧勝はないが、豪快で荒っぽい性格と併せて「オレぁ決めるとこはきっちり決めるぜ」と言わんばかりの小憎らしい勝ち方をする。

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マキュワン勝利。
回りの選手の複雑な表情も印象的。

またマキュワンは当代一流のスプリンターでありながら山岳ステージでタイムオーバーにならずに走りきれる特技?を持っているのも大きい。ゴール前のスプリントを支える筋肉が付いているスプリンターはどうあがいても自分の筋肉で体重が重くなるため山岳ではかなり不利で、山岳ステージにさしかかると片っ端からリタイヤしてしまうパターンが多いのだが、マキュワンはいつも粛々と山岳ステージをクリアしてシャンゼリゼのゴールまで辿り着き最終日も元気にスプリント競争を繰り広げる。「粛々と」と字で書くと簡単だがタイムオーバー即失格のレースで連日とんでもない峠を越え続けるのは決して簡単ではない。山岳ではもちろんダントツ遅いマキュワンだが、それでもリタイヤまではいかない絶妙の粘り腰はほとんど特技の域だと思う。

去年、順調にステージ優勝を重ねながらも落車事故に巻き込まれての怪我により序盤でツール・ド・フランスを去ったボーネンだが、今年は勝ちを得られないままずるずる来た挙げ句、難所L'Alpe d'Huezの登りゴールとなるステージ15でリタイヤとなった。無念。私も今年はボーネンが大暴れするシーンを見られるかなと思っていただけに残念だ。尚マキュワンはこの困難なコースを走りきってお馴染みの粘り腰を発揮している。この「必ず完走できること」もある意味「決めるとこは決めるマキュワン」の一面だと思う。どれだけスプリントが強くてもシャンゼリゼにゴールしない限りマイヨ・ベール獲得はありえないからだ。

シャンゼリゼのゴール後ウイリーしながらピョンピョンとジャンプしてみたりと芸達者なところを見せるマキュワンだが、今年は予定通り!?マイヨ・ベールを着てのゴールでもっと派手に芸を見せてくれるだろうか。

結局今年はマキュワンにやられっぱなしのまま終わったボーネン(途中で中途半端に総合トップに立ってしまってマイヨ・ジョーヌを着たのが逆にプレッシャーになって動きを硬くしたとされている)だが、来年また頑張って欲しい。

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コメント

確かにボーネンは身体的なエリートで羨ましい限りですが僕はどっちかって言うとMcEwen派です。

アシストに恵まれないって言う止むを得ずな事情もあるにせよ常に密集の中、ラインを読み(?)卓越した勝負勘で僅差で刺し切る事に賭けて居る言う所が観て居て楽しいからでしょうか。

今日はRasmussenが逃げ切っての優勝+水玉でこっちも感激。

黄色の行方は兎も角、緑と水玉の行方には興味津々で目が離せません。

投稿: ozaki | 2006年7月20日 (木) 02:48

毎晩ツール観戦でエキサイトしています。マキュワンに関して、その天性の勝負勘と共に、まったくブレない上体が特徴だと思います。あそこまでがっちり固定されたままもがける(しかも勝つ!)のはG.ブーニョ以来ではないでしょうか。
あと緑ジャージ取るには山を乗り切る力が必要ですが、水玉ジャージ取るには序盤で遅れる割り切りが必要なんですかね?とビランク以来そう思います。もちろん狙った大逃げで毎年確実に勝てる両者は紛れもなく超一流ですが。。

投稿: Roppongi Express | 2006年7月20日 (木) 09:01

みなさんこんにちは。
QUICK・STEPのボーネンとミルラムのペタッキは、物凄く恵まれた肉体で勝つ点で似ていると思います。

スカッとする勝ち方はこの2人で、あっと驚かせる、やるなあと思わせる勝ち方はマキュワンでしょうね。ダメかと思わせても最後の最後で来るマキュワンの「最後の最後」にきっちり合わせてくるあのタイミングは、見ていて「こいつって天才」としか思えないですよ。

Roppongi Expressさんお書きのマキュワンのペダリングですが、あれは確かに凄いと私も思います。見ていて「サイボーグ?」と思うときがあります。マキュワンに比べるとボーネンのペダリングはむちゃくちゃにすら見えます。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月21日 (金) 14:07

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