CAT cheetah
トライアスロン界ではかなり有名だが、ロードレースしか興味がない人にはほとんど知られていないのが、スイスの超こだわり手作りマシーン(とあえて呼ばせて貰いたい)CAT cheetahだ。
ヘンテコリンな外観である。
V2 BOOMERANGもヘンだが、cheetahのヘンぶりはその上空を超えるものがある。
特に凄いのがハンドル回りで、この真横からの映像では何となく違うように見えるだけでよく分からないが、実はこんなとんでもない形をしている。
……は?
これはCATが呼ぶところの「CAT X-Aerofork」なのだが、他に例を見ない物凄くユニークな造形だ。
正面から見てもまだ解りにくい。
これと併せて見ると解ると思う。
笑い出してしまう人もいるかも知れない。
考えてみれば合理的な形なのだが、実際に思いついてカタチにしてしまうのが凄い。
ニンゲンには手が2本あって自転車はその2本の腕でコントロールしている(厳密にはキャスターとトレールが産み出す「前輪は前から引っ張られている」要素と回転体が持つジャイロ効果も大いに関わっている筈だが細かいことはこの際気にしないで)のだから、前から見てTの字型になり横から見て反転L字型になるクラシカルなハンドル/ステム構造は不合理で、ハンドルはフロントフォークから直接2本、腕に向けて最短距離で生やせば無駄が無く合理的だ!
と考えたんだと思う。CAT X-Aeroforkでは、一般的なステムが担っている突き出し量がゼロだ。これはCAT cheetahがフレームも含めてのフルオーダーのみなのも理由(フレームそのものを予めライダーのサイズに合わせて作るため)だと思うが、本来凄く重くなるようなカタチをしているのに案外重くないのも、見慣れない見た目よりずっと合理的な形状だからではなかろうか。
当然ながら高さの調整とか利く形をしていないので全て一人一人にむけてオーダー製作しないといけなくなる。CAT cheetahは前段の通りフォーク云々だけでなくフルオーダーのみ。ツルシで売っている自転車ではない。
いや、ツルシで売っているどころかこの自転車を注文可能な自転車屋は日本で果たして何件あるだろうか。ゼロか、日本中で1、2件くらいではないだろうか。スポーツ向け自転車を専門に扱う店ですらその存在自体を全く知らないところの方が圧倒的に多いだろう。「チータ?あの世界一速く走る動物ですか?」がいいところ。車好きなら、プロ野球の新庄がかつて乗っていた(すぐ手放した)ランボルギーニ製のオフローダールック車を思い浮かべるかも知れない。
CAT cheetahのフレームはフルカーボンモノコック。それを一台一台ライダーに合わせてフルオーダー製作するものだから掛かる手間は半端ではなく、奇しくも生まれはV2 BOOMERANGと同じで生産が開始されてから既に10年以上経つのに、CATのHPによるとバックオーダーがかなり溜まっていてオーダーしてもかなり待って貰う必要があると書いてある生産型絶版車。普通の「自転車」とは全てがかけ離れたモノだ。目的や作られた理念が違うので簡単に比較するのは問題もあるが、コイツに比べたらMadone SSLXなど可愛いものだ。しょせん100万持ってTREKを扱っている自転車屋に行けば買えるのだから。
膨大な時間と手間を掛けて作られるcheetahだが勿論この凄い造形は当然UCIの規定を豪快に違反しまくっており、ビッグレースで走れるのはトライアスロンくらいだ。それゆえトップトライアスリートの一人にしてcheetahの愛用者であるナターシャ・バドマンと共に知られるようになった自転車でもある。
他にもcheetahのユニークな点を挙げてゆくと
- フレーム内蔵の給水システムをオーダー出来る。これはいざ作られてみればなるほどで、長い間「ただの空間」で、せいぜいワイヤーを内蔵するくらいしか活用されてこず、その割に外にボトルを取り付けたりしていた自転車の給水に対する画期的アイデアであると思う。掃除が凄くしにくそうな気がするが。
- 純正ブレーキが何とmaguraが一時だけ製造していた幻のロード用油圧ブレーキHS-77で、これをフォークやフレームにほとんど隠れるような形で配置する。
- はっきりした作動原理は知らないが「CAT twistgrip brakes」なるオプションがオーダーできる。これはナターシャ・バドマンも使っているようで、なにげに彼女の愛用するCAT cheetahは、トラックレーサーでもないのに目に見える形で「ブレーキレバー」が存在しない、よく見ると結構仰天の外観をしている。名前から見てもグリップを回すとブレーキが掛かる仕組み。ちなみにナターシャはCAT X-Aeroforkは使っていない。
- 純正カーボンクランクも作っているが、290gとかなり強烈に軽い。
石頭組織UCIのつまらないレギュレーションに縛られることなく「現有の技術で追求できる理想の限り」を追求した一つの究極がここにある。CATは決して大きな会社ではないが、腕とインスピレーションがあればここまで出来る。UCIのレギュレーションがいかに自転車を型にはまった金太郎飴モノにしてしまっているかが分かる。以前紹介したWalserCycleもそうだが、スイスにはかなり濃いぃ製品を作るコテコテの工房が意外とある。
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コメント
キャットチータ、なつかしく、昔の記事のようですが、コメントしてしまいます。
ノートン自転車から以前はオーダーできましたよ。
じつは、2004くらいにオーダーして手に入れて乗ってました。40万強くらいしたかな。(車買わずにボーナス突っ込みました)。金型の関係でしょう、フレーム形状は決まっていて、サイズにあわしてヘッドパーツの位置が変わるという意味でオーダーでした。
ハンドルはノーマル仕様でした。
乗車感は、左右には柔らかなフレームでゴリ踏みするとよれを少し感じました。縦には剛性がありましたが。
エアロ効果はもちろん、最高だったと.....。
当時、アイアンマンに出てましたので、バドマンに憧れて買ったのですが、一度、地方の大会で使って(バイクパート2位でした)、その後、売ってしまいました。フォークのガタがどうしてもとれず、専用のヘッドパーツを汎用のものに交換をショップに無理にお願いしたところ、ヘッドパイプの一部が欠損してしまいました。それで、レースには使えなくなったからです(泣)。町乗りにしたいという人に売ってしまいました。
よくも、悪くも、工芸品でした。
投稿: OGA | 2008年12月24日 (水) 23:46
スイスに注文出したかったのですが、問い合わせたところ実質生産中止のようです。
約1万スイスフラン弱、オプション入れると100万円超えですね。
(値段は発売当初からずーと同じだそうで)
145台しか作られなかったらしいです。
投稿: 非常識人 | 2009年11月 2日 (月) 17:20