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2006年7月11日 (火)

ポジションの前後不覚

ウォームアップ中のブイグテレコム使用TIME RXR

Bouyguestimettbike

いやー、相変わらず格好いいね。

こっちは出走前のクレディアルリコール使用LOOK KG496

Calook

トラック用最強フレームの一つであるKG496アテネをそのまんまに、ロード用としてリアエンドを広げブレーキや変速機が使えるように修正したガチガチのTT用自転車。いかつい。

KG496の方を見て欲しい。サドル先端が切り落としてある。
サドルを切り落としてしまうのはここ最近のTTで珍しくなくなってきた光景なのだが、これはUCIの規定である

1.3.013(サドル位置)
サドル先端のボトムブラケット芯からの水平後方距離は最小50mm
とする。
この制限はトラックスプリント、ケイリン、500mまたは1kmタイムトライアルの競技者が乗る自転車には適用しない。
ただし、いかなる状況においてもサドル先端はボトムブラケット軸を通る垂直線の前方へ出てはならない。

をクリアするためのものだ。
サドルを切ってしまうくらい、レーサー達はサドルを前へ出したいのである。RXRの方も切り落としてこそいないがサドルレールを見るとかなりサドルを前に出してある事が分かる。

UCIの規定とは違う独自の規定で動いているトライアスロンではもっとサドル位置を前に出してよく、それに則って作られたトライアスロン専用バイクは、それはもう物凄く前にサドルが位置しているものがよくある。それでトップトライアスリートは単独走行(特に「アイアンマン」などと呼ばれたりもするフルディスタンスのトライアスロンでは、密集集団走行して他の選手を風除けにするドラフティングは現在も禁止行為。見つかるとその場で即座に停止・下車が命じられる)して160kmを4時間ほどで走りきってしまう。

ところが昨今、ロードレースのポジションは「後ろ乗り」が良いとされている。
雑誌じゃ定期的に後ろの乗り特集だ。

後ろ乗りがハムストリングスなどの「エンデュランスマッスル」と呼ばれている筋肉群を用いて走りやすいことから今は主流…らしい。

サドル位置を前に出せば出すほど大腿四頭筋、一般にフトモモと呼ばれている筋肉を主に使うことになり、後ろに下げるほどハムストリングスを主に使う事になる…らしい。

腰、いや骨盤は、べちゃっと寝るより立っているほど体幹の腸腰筋を有効に使える…らしい。

そしてこの「腰を引いて、しかし腰は立てる」を満たすため、ハンドルのリーチは短くなってきている。

私はこの「後ろ乗り」なる言葉、これがいきなり間違いの始まりなのだと思う。

「後ろ乗り」でブラケットを握っているときはこんな格好である。絵がヘタクソな点は無視して欲しい。

Pedal1

ペダリングは、足を前に蹴り出しているような力の使い方になる。実際後ろ乗りとはそのようなペダリングをする。

古典的前乗りDHポジションだとこんな感じ

Pedal2

となる。
誤解の無いように注記しておくと、私は後ろ乗り否定派などでは全然ない。いま一般に「後ろ乗り」と呼ばれているポジションの格好を眺めていると見えてくるが、あれを「腕でハンドルを引き、腹筋や腸腰筋、大臀筋を使って足を前に蹴り出す方法」と考える時、結果同じパワーを発生させるとしても様々な箇所に負担を分散させる事が出来る(=色んな筋肉を動員できる)点で確かな合理性を持ったポジションだと大変得心が行く。実は、より有効に「後ろ乗り」するため、腰とステムの根本付近をワイヤーで結ぶことで腕や腹筋を使わずともガンガン前に足を蹴り出す為のグッズが大マジで製作され(作ったのはウェアで有名なASSOSである。今でこそウェア専業に近いASSOSだが、わりと自転車競技のアイデアグッズを製作してきた会社だ)実際に競技で活躍した事もあるくらいだ。なお現在はお約束通りUCIによって禁止されている。

だが、一般に「後ろ乗り」だと思われているポジションだけが後ろ乗りでありエンデュランスなのだと思っているなら、月の裏側は月ではないと思っているのに近く、けっこう陥穽があると思う。名前に「後ろ」と入っているのがどうにもまずいと思うのだ。言葉のニュアンスから勝手に思いこまずいろんなポジションを積極的に試してみたら教えられなくても気が付くが、相当強烈な前進ポジションであってもポジション設定次第でハムストリングスや大臀筋などのいわゆる「エンデュランスマッスル」を積極的に使って走るのはできる。雑誌がやる「後ろ乗り」特集はこの点を無視していることが多いのがおかしいと思う。

たとえばこれだ。

Pedal4

一見物凄い「前乗り」ですね…?
上体がとんでもなく突っ込んでますな。

ところがこの“えらいこと上体が突っ込んでいる前乗り”が、最初に描いた「後ろ乗り」と同じポジションなのだと説明したら驚くだろうか?

うそこけ?
いやいやそれがなんと両者は同じなのだ!

腕の肘から先をちょっと弄っただけで、あとは全体のポジションを全く同じにしたまま前回りに回転させただけなのである。ウソだと思うなら画像処理ソフトで回転させて貰ったらいい。肘から先を除いてピッタリ重なるから。ここで、トップレーサー達のポジションを冷静に観察している人なら気が付く筈だ。

最近、TT用バイクのサドルは上がる一方で、DHポジションの肘の位置は下がる一方。そしてサドルはどんどん前に出ている。全ては

「(エンデュランスマッスルを使用する)ポジションを変えずにポジションを(より空力の良い形に)変えるため」

だ。そのため、極限までヘッドチューブの短いTT用バイクが作られルール上もうこれ以上前に出せなくなったサドルは最初に書いたように切り落とされる。

なんのことはない。

問題は「後ろ」か「前」かじゃなかった。

マスコミがナントカの一つ覚えで前だ後ろだと連呼するからおかしくなるのではないか。端的に書くとTT用バイクのポジションはちっとも「前」乗りではない。

いわゆる「後ろ乗り」ポジションのままで、でんぐり返り方向に回転させたポジション

なのである。それを前と後ろで判断するからおかしくなる。

ランス・アームストロングが2005年のツール・ド・フランス個人TTで走っている姿をほぼ真横から捉えた写真。

Lance_ttx_side

肘の前後関係やサドルが尻の後ろに余っている事でも分かるようにけっこう前進ポジションだが、全然「前乗り」ではない。ランスは発達した大腿四頭筋を持ちながらも、ハムストリングスや大臀筋、腸腰筋を使ったTTが誰より得意だった希有の選手だ。ついでに大腿四頭筋を積極的に使った走りもうまかった。そりゃ強いわ。

「前乗り」「後ろ乗り」のStereotypeな区分自体がもう“終わっている”のではないか。

ようは、
大腿四頭筋とヒラメ筋を主に使うポジション

ハムストリングス、大臀筋、腸腰筋を主に使うポジション
の大別ではないのか。
それに前とか後ろとか不適当な名前を付けるから「ポジショニングの前進・後退」とごちゃごちゃになる。

そんなわけで、当Blogでは今後「前乗り」「後ろ乗り」はやめることにする。
この言葉使いは誤解の余地がありすぎるから。

ちなみにこの文章を部分的に書いては放置、また部分的に書いては直し書いては直ししている間(前後ではなく回転しているだけではないかと書き始めたのは6月アタマ)に、勝手に尊敬するところの某S店Y店長が自身のバイクとポジションの図解入りで根本が同じになるTTポジションは同じ位置関係のまま全体が前転しているだけ理論を展開。完全に先を越されてしまったのだが、逆に私だけがおかしなリクツに辿り着いたわけではないらしい事を確信して少々ならずほっとし、安心して公開することにした。

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コメント

!!!!!
なるほど。

今回のツールでF・ランディス選手が腕を水平より上に引き付ける、まるで「お祈り」?と見えるような特異なポジションをとっており、私も某店長とどういう意味があるのだろうか!?と話していたところです。

空力的効果はマイナスに働くように見えるものの、PTを用いて効率を追求したと思われる為、「秘策」のはずと思っていたのですが。

思いっきり前転し、腕を引き付けることで強く上体を支え、全身の筋肉を推進力に使っていると考えられます。

ポジションなんとも深いですね。

投稿: SORA | 2006年7月11日 (火) 07:34

毎度です。
フロイド・ランディスのあのヘンテコリンなTTポジションは今回のツールでかなり話題になっているようです。そしてランディスだけじゃないんですよね、あのヘンテコスタイルは。

ランディスの場合はTTのスタートに遅刻ぶっこいたのも手伝って余計話題をさらっていますが、このあたりの大物ぶりはまるでデルガドですね。

私も面白いなと思ってますので、ランディスとヘンテコTTポジションに関しては特に取り上げてみたいと思います。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月13日 (木) 16:26

自転車、難しいですよね。

わたしの中国製安物スポルティーフ(当然完成車で購入)は、サドル高さと前後位置、ステムの高さと長さで調整してわたしに合うポジションにしてます。
わたしのロードレースやファーストラン・ツーリングの経験を反映させています。しかも格闘技や登山の経験まで導入しているので、一般のサイクリストから見れば、相当変なポジションに見えると思います。
レバーを好ましい位置に移動したフラットバーは明らかに長いんですが、長いなが~いアップヒル時に握れるようカットせずに残しています。
わたしのポジション理論を明かすことは有り得ませんが、チャレンジを続けるサイクリストの数だけ、ポジション理論の数もあるはずです。
理論が実践できてきても、次は現実とのギャップも出てきますよね。理論通りのセッティングが正確に出なかったり、折角決まっても、いつもと違う寝方だったり靴下が違うだけでも感覚は違ってきますから。。。
自転車は、本当に難しいですよね。

投稿: のんだくれ | 2006年7月16日 (日) 18:26

のんだくれさん、まいどです。
結局はそのライダーが自分の力をいかに効率的に発揮できるかどうかが問題で、そのためにどうするかだけでしょう。だから私は正直「〜が正しい」論争に関しては観客以上の興味がありませんし、科学的にポジションを検討したことがない普通の人の持論も訊ねたいと一切思いません。何の興味もないからです。
その人が走る内容に応じて最もパワーが出るポジションがその人のベストポジションだとしか思っていません。それを計るためにかなりの金を投じてSRMも作られたわけです。最もパワーが出るポジションとは、同じ速度で走るなら最も楽なポジションでもあります。

なお「理論通りのセッティングが正確に出なかった」ら、それは「理論が実践できて」いないだけですね。

体調うんぬんですが、私もその日履くレーサーパンツのパッドの厚さに応じてサドル高を変えるくらいの事は普通にやります。ポジションとは…と大上段に構えて語る人間がそのくらいやらないならお笑いぐさですから。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月18日 (火) 12:12

ランディスのポジションですが・・・
http://www.cyclingtime.com/modules/ctnews/view.php?p=2949
ということらしいですね。

しかし管理人さんの最高速68km/hはやっぱりすごいですね。こないだひさしぶりに最高速チャレンジできそうなロケーションにめぐり合えたので、そこで鬼漕ぎしてしみましたが57km/h以上は伸びませんでした。ちなみにホイールはWH-7800でした。前後バトンならもう少し伸びたかな・・・。
まあ、芦ノ湖上った後の脚だったのでかなり疲れていたのもあるかも知れません(涙)

投稿: haLcyon | 2006年7月19日 (水) 15:54

halcyonさん、まいどです。
なるほどこんな真相ですか。
ランディスが股関節を痛めている話は聞いてましたが。
でも不思議なことにあれ他の選手もやってるんですよね。当Blogでも書きましたが、何故かラボバンクの選手もあのポジションだったりする。

これも他で書きましたが、実業団でピストやってる人はロード練習のもがきであっさり75km/h以上出します。鼻血が出るほど頑張っても70km/hも出ない私は、それら一般人的には無名の人たちと比べてさえ全く論外なわけで「普通のおじさんにしては頑張ってるかも」程度のもんでしょう。そしてダッシュ力ないんで到達するのに長い直線がいりますし、同じ場所でも調子がよくない限り62、3km/hくらいで上げ止まってもうそれ以上伸びない事がちっとも珍しくありません。本当に速い人はトップスピードに到達するまでに要する時間も全然短いので、本当の物理的速さはその手の選ばれた人たちに任せて、私は人と比べてどうこうではなく前の自分を超えたかどうかを求めて走っています。

何も運動していないような人や根本的に運動能力に優れているわけではない普通の人を相手に勝って「勝利」を増やす事に何の興味もありませんし、本当に優れた人相手には私が今からシャカリキになって血尿出るほど鍛えたところでもうケツも拝めない事がはっきりしています。

60km/h以上の領域だと、普通なスポークホイールとエアロホイールは間違いなく差が出ますね。だいたい50〜55km/h出すともうはっきり違いが分かります。前iOに後Discだと55km/hくらいからもわりとスルスル速度が伸びて58、59,60、61…とメーターが上がっていきますが、普通のスポークホイールは60km/h手前に壁があるのを感じます。そこを力だけで踏み越えるには相当なパワーが必要になってくると思います。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月19日 (水) 21:46

ランディスの「お祈りポジション」ですが、私はなんとなく、スーパーマンになる前のオブリーのポジションとダブるものを感じます。腕をたたみこんで前面投影面積を極限まで減らそうというあたりでしょうか。

ゼロライズに近いDHバーを、手のひらを上に向けるようにして握るポジションはトライアスロンなどでも主流になりつつあるようですが、もしかしたら、空気抵抗と出力の出しやすさをもっと高い次元でバランスさせるポジションがあるのかもしれませんね。(あんまり突拍子もない姿勢だとスーパーマンスタイルみたいにUCIが禁止しちゃいそうですが)

投稿: Mantis | 2006年7月19日 (水) 22:58

Mantisさん毎度です。
空気抵抗と出力とのバランス点を探る試みは今も続いていると思います。

それが画期的すぎるとまたUCIがしゃしゃり出てきて余計なことをしそうですが、現行既にかなりがんじがらめなので、UCIが騒ぐほどのbreakthroughはかなり難しいでしょう。

しかし、これまでも何度も壁と思われていたものが破られて来たのが歴史なので、これからもあっと驚く何かが出てくる余地はあると思います。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月20日 (木) 07:22

ポジションに限らず、自転車は感覚的な部分と客観的な数値は必ずしも一致しないから困ります。
また、理論的には正しくても、実際には、、ということもままあるわけで。

>その人が走る内容に応じて最もパワーが出る
>ポジションがその人のベストポジションだ
>としか思っていません。
>それを計るためにかなりの金を投じて
>SRMも作られたわけです。
>最もパワーが出るポジションとは、
>同じ速度で走るなら最も楽なポジションでもあります。

と、おっしゃっていますが、実際は最も速い姿勢がベストポジションでしょう。

出力が最大化するポジションでも空気抵抗が大きければ、高速域では非効率(=相対的に遅い)となりかねません。同じ速度で走るなら、出力が小さいほうがいいわけですし。

そういった意味では、出力計があれば、出力最大化ポジションも空気抵抗を折り込んだ速度域ごとのベストポジションもかなりの精度で出せますね。
このポジショニングだと、
出力はベストより平均5%低下するため、45km/h以下で巡航する場面が多いと不利。
しかし、空気抵抗が小さく、同じ55km/h出すにはこちらのほうが7%低出力でもよいため高速域を優先するならよい、とか。

投稿: SORA | 2006年7月20日 (木) 07:34

SORAさん、毎度です。
SORAさんの方が内容が的確で、私はざっくり書きすぎですね。

アームストロングがTTにあたって空力を犠牲にしてでもより出力が出るポジションを敢えて採用していたのはけっこう有名(?)ですが、余人が真似をしたら単に損をするだけでしょう。35km/hくらいから先は走行速度に応じての最適化が正義になり得ると思います。ましてや速くなればなるほどそれがシビアになってくる筈。

感覚は、あんまり信用しない方がいいでしょうね。それはずっと感じて(笑)います。
坂でさえ「最も苦しかった登坂≠最も速かった登坂」だったりします。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年7月21日 (金) 14:12

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