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2006年8月15日 (火)

産み出す1mに意味はあるか ベアリングの話

あんまり触れてこなかったベアリングについての話。

なお、私はベアリングについては文句なしの門外漢なのでその点は注意して読んで欲しい。

私が今までベアリングで一番「こりゃすげえ」と思ったのは、何を隠そうキックスケーターである。呼び方は「キックボード」が一番通りがいいか。自転車でも自動二輪車でも自動車でもない。

当初青山か原宿だったかのブティック店員達が近所に買い物に行ったりするのに使っていたのを震源地として日本中で流行し、すぐさま中国生産の粗悪品がドバドバ出回り、坂道で子供が車に突っ込んで死んだ事故を境に市場が一気にスッコーンと冷え込んだアレだ。今でも子供達が乗っているのを時々見かけるが、むしろ子供向けの乗り物では「ない」と思う。見ていると、ほとんどの子供がロクに真っ直ぐ走ることすらできていない。実際問題物凄く直進安定性が悪くてブレーキも効かず、正直「危ない乗り物」だ。危険性は自転車の比ではないと思う。私はけっこう好きなのだが。危険な時はブレーキで止まろうとするのではなく咄嗟に判断してパッと飛び降り着地する方がよほど安全で、あれの「ブレーキ」は停止用ではなく速度調節用。変に乗ったまま止まろうとするとむしろ事故る。この手の製品でまともなのは、なんとドイツの警察に制式採用もされているチロ社のチロスケーターくらいだろう。一番高いモデルは20万円くらいした筈で値段もぶったまげだが、乗り物として確かにきちんと作ってあって子供の玩具とは全然違うし、モデルによってはmaguraの油圧ディスクブレーキ(!)が奢られていたりする。ステアリングダンパーが付けられたり、サスペンションも安物自転車の怪しいサスなど裸足で逃げ出すほどちゃんと作ってあったり、真剣に30km/hや40km/hで走行する事を想定して作ってあるのが分かる。

それはともかく、あれのベアリングを、もともとインラインスケート用でわりと有名なSWISS BONESのものに換えてみた時に、生涯で最も「回転部の出来の差は凄いな」と感心した。

一蹴りで進む距離が、まさに驚くほど違う。

BONESに換えると、一蹴りでビューンと伸びる伸びる。なかなか失速しないのだ。元の正体不明ベアリングが如何に鼻クソ丸めたようなものだったかがよく分かった。ベアリング以外何も換えていないのにウソのようにスムースに走るようになったからだ。

これほど劇的な体感差が演出された原因は

  1. 元のベアリングが粗悪品
  2. SWISS BONESのベアリングがそれなりに良い(たぶん)
  3. キックスケーターはめちゃくちゃ小さなホイールで走行するため、同じ距離を走るにしてもホイールの回転数が半端ではなく、ベアリングの差がより如実に出る

のようなものかと思う。インラインスケートはカートリッジベアリングのものばかりでまたベアリング交換やベアリング自体を弄ることによるチューニングも盛んであり、多くのユーザーやショップがベアリングに関して自転車乗りや自転車のショップよりも桁違いに詳しい。

自転車の世界でも、回転部のチューニングに異常に凝る人とそうでない人がいる。またチューニングでも

  1. 接触面仕上げ主義
  2. ハイテクベアリング主義
  3. ケミカル主義

が3本柱だと思う。どれかに偏る人も居れば、複合型も存在する。もちろん全く逆の「そんなもんの違いは誤差」主義も厳然として存在する。接触面仕上げ主義の人は競輪界に多く、まさにゴッドハンドなハブ磨きのプロが存在する。ベアリングにしてもG3のタマを更に磨いて“神のベアリング”を作り出すような人もいるそうだ。競輪は厳密なレギュレーションの関係でやれることが少ないし、ほんの数cmの差で何千万円が左右されることもあるから「これをやれば5cm前に出られる」が冗談じゃないのだ。そこまでやっても差はセンチもないかも知れないが、それでも名誉も金も掛かってるんだからやれることは全部やって不思議はなかろう。

ハイテクベアリングの行き着くところはセラミックだろう。
新素材のベアリングも次々生まれてきているが、結局メリットは「同等品なら低コスト」だったりするようだ。

前述のインラインスケートでも、最高はセラミックでもう議論の余地がないようだ。自転車な人には驚きかも知れないが、競技用ヨーヨー(なるものがあるのだ)の世界でもセラミックベアリング使うようになって一人前の大人(!?)などと評したりするくらい高性能=セラミックらしい。まあ、変な話だが回るもんで今どきセラミックベアリングにまだ懐疑的なのはたぶん自転車くらい。逆に見ると自転車の世界はそのくらいベアリングが適当でも充分通じるわけだ。

セラミックベアリングの長所は

  1. 耐摩耗性がずば抜けている
  2. 摩擦係数が低い
  3. 回転させることによる熱の発生が大変少ない
  4. 耐熱性が高い
  5. 1〜4の特性のため、球と受けの両方をセラミックで作ると潤滑油ゼロのドライ使用も可能で、このため潤滑油の類の使用が全く期待できない数百度以上に達するような環境下でも使える
  6. 硬度が高くて力を受けてもほとんど変形せず熱による膨張も非常に少ないので、加工精度が同じとしてもより“遊び”の少ないベアリングを作れる
  7. 耐薬品性が桁違いに高い

ことなどが長所。おまけにベアリングに使われる金属より軽いので同じサイズのモノを作ったら軽量化にもなる。長所だらけだ。最大の欠点はまだまだ高価なことか。現在求めうる最高精度のフルセラミック型カートリッジベアリングは1ユニット何万円にもなるようで、自転車用としては問題外なまでにオーバークオリティなのは否めない。

セラミックベアリングと聞くと

  1. 球だけ換えると虫食いを起こす
  2. 割れる
  3. 精度が低い

あたりがセラミック懐疑論としてよく出てくる気がする。
1.は以前Carbon Cloth氏の「問題なく使える」情報を得て、私も自力であちこち捜した挙げ句ベアリング屋さんを見つけて色々聞いてみた。私が聞いた限りでも、虫食い話は事実ではないらしい。虫食いの原因は素材よりも球あたりの問題の方がよほど大きいそうだ。つまり、セラミックボールに換えた事によって虫食いを起こしたとすればそれは単なる調整力量不足をセラミックボールのせいに責任転嫁しているだけ。確かにそうでなければボールだけセラミックのハイブリッド型カートリッジベアリングが作れる筈がない。どうあがいたところで鉄の類でセラミックのモース硬度に匹敵するのは無理だから、本当にダメならハイブリッド型は虫食いだらけで使い物にならない筈なのだ。ただ、フルセラミック型は潤滑なしで回すドライ使用が可能だがハイブリッドでドライ使用を行うとすぐダメになってしまうためハイブリッドはセラミックベアリングの長所の一つである「ほとんど潤滑しなくてもクルクル回る」が最初からスポイルされている形式でもあるようだ。セラミックベアリングをいち早く採用して話題になったCampagnoloのHYPERON ULTRAもハイブリッドだ。なおHYPERON ULTRAは玉押し等がセラミックベアリングに対応した特殊加工品であるとする都市伝説があるが、部品の型番号を調べれば一目瞭然。普通のHYPERON、いや正確にはRECORDクラスのハブと同じモノを使っている。ちなみにFulcrumのracing1やracingSpeed、racingLightも同じ部品がそのまんまピッタリ使える。

2.の割れるだが、これは「懐かしい話」だそうだ。思わず笑った。特に今の日本製ではまずないらしい。

3.の精度も、今や最高級グレードのG3規格を通るセラミックボールが量産される時代になった。ただこれは日本がダントツ最先端を走っていて、他の国はG3のセラミックボールを量産するような真似は到底できないそうだ。アメリカでさえG40以上は歩留まりが悪すぎ、安定して作ることは難しいらしい。アメリカのベアリング会社が「軍需規格を通った」と鼻息粗く販売しているセラミックベアリングはせいぜいG60とかG100程度でしかないらしく、日本のベアリング会社から見るとおよそ敵ではないそうだ。もともと日本は世界に冠たるベアリング大国なのだが(このくらいは私でも知っていた)セラミックベアリングに関しては特に図抜けており、品質で他の国はおよそ敵ではなく、日本製に比べると他の国のセラミックベアリングなど典型的「安かろう悪かろう」でしかない。

究極のベアリング性能を求めて物凄いものを欲する場合、中途半端にシマノとかカンパではなくカートリッジベアリング式のハブに最高精度のフルセラミックベアリングを入れるのが解ではないか。

案外、これからのマニアックなハブとはカートリッジベアリング式の時代なのかも知れないと思った。その場合ベアリングの前後4ユニットの代金で下手するとホイールの代金を上回るほど費用がかかるが、逆にシマノやカンパのようなカップ&コーン方式を超える物凄い高性能ベアリングをぶち込むことも出来る。それに意味があるかどうかは別として「やれること」の範囲はカートリッジをポン付けするハブの方がむしろ広いわけだ。これを超えようと思ったらカンパレコードハブ用の玉押し&玉受けをセラミック製の特注で作ってもらってセラミックボールを入れるくらいだろう(シマノのハブは玉押しこそ交換できても玉受けが交換できないのでこの手法は無理)。こうなるともうコストは天井知らず。量産品の値段とは量産することを前提に製造用の金型を作り、それを製品の値段に分配して乗せる事で安価な販売を可能にしている。特注もののために金型から起こすとなると金型代が全部その代金に乗ってしまうから値段は桁違いに大爆発だ。たかがネジにしても規格外の変なピッチのものを特注で作ってもらうと物凄い値段になってしまうと聞いたことがある。ましてやもっと製造困難でとてつもない精度が要求されるベアリング部品を特注など、考えるだけで恐ろしい。カンパがHYPERON ULTRAでボールにだけセラミックを採用したのもコストの問題だと思うし、結局やめてしまったのもコストの問題(ベアリングの部品価格が随分違う割に性能的な差が出ない)だろう。

ベアリングの球の精度は、JISの場合Gナントカで表示されるそうだ。
今のところG3等級が最高らしい。

3
5
10
16
20
28
40
60
100
200
500
1000

などなど。数字で表され、数字が大きいほど直径不同、真球度、表面荒さ、ロット間の相互差の値が悪くなる。ステンレス球の場合は高精度を謳っているものでも大抵3桁で、SUS304のものは根本的に素材硬度が低い関係でG500以上にするのは非常に困難らしい。SUS304の場合、まともな「ベアリング」として使える球の製造は無理があるとの話だった。同じ「ステンレス」でもSUS440CのものだとG3等級のものまで作れるそうだ(焼き入れが行われ硬度が高いので)が、製作自体が簡単でないので大手以外で作っているところはまずないのだとか。

自転車の回転部ベアリングとして使用されている球は、純正品だと最高グレードでさえG三桁、100とかで普通、G60ならハイクオリティなのだそうだ。G20のものを使っていたりすることはまずないのが現実で、さっきからG3G3としつこいが、ベアリング屋さんから見れば自転車なんぞにはG20でも無意味なオーバークオリティらしい。掛かる負荷や回転数等の要素から考えて、そんな精度なんか全然求められていない筈だと。このあたりが「違いは誤差程度」説の論拠にもなっているのだと思う。そんなもんで十分だしそれ以上のものを入れても差なんか出んぞ、と。これ以上タマを良くすることで本当に意味のある何かに貢献するならCampagnoloもHYPERON ULTRAのセラミックベアリングをまだやめず、それどころかBORA ULTRAにも採用した筈だ。

もともと自転車の動力効率は図抜けていて、90%を超えている。恐ろしいばかりに高効率な乗り物だ。一般的な自動車がエネルギーのほとんどを無駄に捨てている(私の記憶ではガソリンエンジン車の効率は20%にすら満たない)のに比べると、さすが人類が産み出した最高に高効率な乗り物と評するほかない。しかもロス分10%ほどの内訳の大半がギアとチェーンの部分で発生するロスであり、ハブで発生しているメカロスなど「誤差」と考えてもいい程度なのが現実である。本当に機械損失を少なくしたいと考えるなら、ハブの回転に血道を上げるよりもギアやチェーンを何とかしようとした方がよほど根本的な問題の解決に目を向けており正解なのだ。ベアリングのプロのほとんどが自転車にハイグレードなベアリング球を使うことへ「意味がないのでは?」と首を傾げるのは、理屈からしても至極もっともな話なのである。競輪のところで取り上げたような究極の回転部を使った場合と純正ハイグレード品を使った場合との違いで発生する実際の差は1000m TTで1m出ないと思う。確かにいいベアリングを使い最高に整備されたホイールは空転させた時の回りが全然違って感動的なくらい軽く回るのが紛れもない事実なのだが、この手のハブ回転で感激する話は自転車の効率自体が根本的に軸の回転の良し悪しにはほとんど依存していない重大な問題を抜かしている盲点があるのだ。魔法の数字と呼ばれたりする700cの直径だが、自転車はこの大径ホイールの採用により転がり抵抗や回転軸の抵抗が効率に及ぼす影響をかなり小さくしており、伊達に車輪がでかくないのだ。(そのせいでホイールの空気抵抗がでかくなってしまったが)

最初のキックスケーターの話も考えるに、ベアリングの差はホイールの径が小さくなればなるほど大きい。とすると700cのホイールを使用するロードレーサーやトラックレーサーよりも16inchとか14inchの小さなホイールをグルグル回して走る小径車の方がよほどハブの回転性能にシビアだ。何故ならホイールが小さくなればなるほど“流して”走っている時でも回転数が上がる。たしか8インチホイール採用のユニークな折り畳み自転車があったが、それこそフルセラミックベアリングを入れたら間違いなく走りがはっきり変わる筈だ。たかが20km/hで走るだけでも700cの自転車で60km/hを超える速度で走っているときと同じ回転数でホイールが回る。明らかに限定された用途向けである8インチホイールの自転車で30km/h出す人はあまり居ないだろうが、30km/hで走れば実に700cの100km/h相当以上にもなる。これはさすがに有意差がありそうだ。そこまでコストを掛ける事に意味はないだろうしやる人もいないだろうけど。

直径70cm弱もあるタイヤで走るロードレーサーやトラックレーサーでハブの回転に血道を上げるのは、最終的なところでは実効よりも

「そこまでやった」気持ちの問題

なのだろうと思う。
私だって紛れもなく気持ちよく回る方が好きなのだが、それで何らの有為な効果が出ると思っているわけではなくて「出来ることは全部やった」ことがもたらす気持ちの問題の方が実効(あるかどうか怪しい)よりも効くと思っている。つまり、ハブの回転に血道を上げても気分的に気持ちがいいだけでタイム向上にはあんまり効果ないだろうな、と。

今回採り上げなかった「ケミカル派」に関しては、完全に別に取り上げたいと思う。

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コメント

お久しぶりです。
ご無事でしたか(笑。よかったよかった。
私はここ数日40度の熱で意識が旅に出そうでしたが。

閑話休題
速さとベアリング性能の相関に関して、珍しく科学的なエビデンスに言及されていませんね。結論が“「そこまでやった」気持ちの問題”だからでしょうか。

科学的考察の意味すらなさそうですが、、、、わかりませんからね、科学は。
どこかの研究機関でやってもらいたいですね、40km/hくらいの等速でエネルギーをかけ続けたとき、ベアリングの損失による有意な差が生じるか、の研究。

投稿: SORA | 2006年8月16日 (水) 23:52

SORAさん、まいどです。
取りあえず生きてまして、亡霊や他人の代役ではありません今のところ。

科学的エビデンスに関してですが、ベアリングで食べてる人に言わせると、自転車に高性能ベアリングは「無駄」「オーバークオリティ」で異口同音です。そのような人たちから見た自転車とはどうやら誤差とガタの塊が歪みながら低回転して動いているもので、回転軸だけ急に良いものを使ってもトータルの差は誤差に吸収されてしまうのだと思います。

で、セラミックはともかくとして、さすが日本。G5とかG10の球も大量に買えばやっすい値段で手に入るんです。でもシマノとかはその高いわけでもないG5やG10の球を使わない。DURA-ACEのハブのベアリング球をG10にしても100円コストアップしません。でもやらない。これはやっぱり「意味がないから」でしょう。もちろん差が「ゼロでなはい」事は分かっているのですが、意味があるほどの差があるとはちょっと思えないです私にも。

ハブにセラミックベアリングを入れるよりもプーリー(RDの)に入れた方がよほど効果があるとする面白い説もあったりして、これ一見トンデモ話ですけど一理あります。パッと聞いた感じは「はぁ?」な話ですが、回転数がハブの比ではないため「ヨーヨーじゃセラミックベアリングが普通」の話に近いのです。

それこそどこかが実験してくれたら面白いと思いますし、やってほしいですね。今のままでは効果があるとするのもないとするのも「慣習的常識」のぶつかり合いに過ぎないからです。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年8月17日 (木) 01:11

こんにちは。ローラー台について読み歩いていてたどり着きました。

ベアリングに関してですが、メカ設計屋の自分も誤差の範囲だと思います。それも測定誤差ぐらいの違いでしょう。

ですが、自分もママチャリのメンテなどでハブのグリスアップをしますと、完全に走りが変わって1割ぐらい速く走れたりします。

自分はこれを「メンタルチューニング」と呼んでいます。
フィジカルでもメカニカルでもない、メンタルチューニング。

人が運動するというのは心の問題がだいぶ大きいんじゃないかなーと、機械と一緒に仕事をしている身としてはそう思います。

これからもいろいろ楽しい記事を読ませてくださいね。
ではでは。

投稿: jmz | 2006年12月 8日 (金) 01:43

jmzさんはじめまして。
これからもよろしくお願いします。

自転車のプロではなくメカニックのプロの意見では誤差でしょうね。
これはもう皆さんそうおっしゃる。異口同音なのであります。
私も誤差説の住人なんですけど、誤差だと思うから頭っから否定するのではなく、どう思っていようと実際に使ったらどうなのかを試す路線を採用してます。

実は自分では触ってもいないものを、人から聞いた噂話を根拠にして頭ごなしに否定するだけなら引き籠もりでも出来ますから。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年12月12日 (火) 00:18

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