ergomoはプロトタイプ?
ここ2、3日、ergomoがやっとまともに動くようになった。
“使える”ようになるまであと一歩のところまで来た感が漂う。
セッティングにかけた時間はたぶんPOLARのPower Output Sensorをか〜るく上回る。
何故こんなことになったのだろうか?
ergomoとは…
- 普通に有線サイクルコンピューターとして使え、サイクルコンピューターとしては異例の広くて大きいフルドットマトリックスディスプレイを備えるため画面が広くて見易い。それこそPOLARのSシリーズ(時計型にこだわったので仕方ない)とは全然違う。
- オートスタート/ストップの“キレ”は有線の割に無線のPOLAR Sシリーズに劣り、同CSシリーズに優る。スタートはクランク(正確にはBB)に力が加わるのを検知すれば開始されるので当然ながら物凄く反応がいいが、ストップはPOLARのSシリーズ比で2秒後くらいに計測停止する感じで、POLARのSが車両停止後2秒くらいでスパッと停止する(これは無線とは思えないほどキレがいい)のに比べると差がある。Sが停止してからも5秒くらい計測が続いて「いつになったら計測が止まるんだ」と不安になってくる時すらあるCSシリーズに比べたら随分ましではあるが、ストップ&ゴーが続くと次第に差が出る。ただこれはergomoが遅いのではなくPOLARのSシリーズが優れていると評していいと思う。面白いことに、トリップメーターの距離はergomoとPOLARのSでほとんど差がなく、CSだけあからさまに短くなる。Power Output Sensorを使って有線で使っても標準仕様の通り無線で使ってもオートスタート/ストップのキレはほとんど変わらず、POLARのSは無線式でありながら半端な有線式サイクルコンピューターよりもこのへんのキレがいい。
- ergomoのトリップメーターは、有線式なので当たり前だが非常に正確。POLARのSも高圧線のようなノイズ源がない限り無線式にしては正確。Power Output Sensorを使用するとノイズ源があっても正確。同じPOLARでもCSシリーズのトリップメーターはかなり怪しく、同じコースを走っても毎回距離がバラバラなのが気になったので「ノンストップだと10kmと計測される同じスタート/ゴール地点でわざとストップ&ゴーを繰り返してみるテスト」を試しにやってみたら300〜500m減るのは「普通」で、一番酷い数字が出た時は800m減る事もある(=ノンストップだとスタートtoゴールで10km表示されるトリップ表示が、同じコースでストップ&ゴーを繰り返すと9.2kmになることもある)のを確認した。CSのトリップメーターはレースのようにスタートしたらゴールまで一度も止まらない場合を除いて信用できないし、同根の理由でアベレージスピードもノンストップに近い走行以外では全然あてにならない。逆に書くとレースに使うメーターと考えるなら何ら問題なく、ノンストップで走るなら10kmのコースを10kmと計測するしアベレージもかなり正確。CSにも長所があって、心拍の検出もトリップもSシリーズよりノイズに強く、Sシリーズがノイズで心拍228とかとんでもない値が出ている時でもCSは正確に表示していたりする。ergomoはCSと同じくらいで、本家のSシリーズより心拍検出のノイズに強い。ただしセンサーバンドからの検出可能距離はかなり短く、設置位置に気をつけないと心拍が0になる。これらの比較テストをしていた時に見つけた裏技としては、SとCSでセンサーの互換性は公式にはないことになっているが、実はCSシリーズのスピードセンサーでSシリーズも作動する(そんなにきちんと試していないが、逆はうまくいかなかった)。ケイデンスセンサーは互換性がなかった。
- ergomoは走行中でもほとんどワンタッチの簡単な操作でAverageやMaxが見られるのは良い。スイッチは大きいので押しやすい。POLARは誤操作を防ぐためわざと押しにくくにしているので設計ミスではないのだがこれは本当に操作しにくく、違う意味での設計ミスだと思う。
- 高度計を利用して現在の斜度が%でほぼリアルタイム表示されるようになっており、斜度表示機能が付いているサイクルコンピューターは珍しい(2、3しかない筈)のでそれなりに貴重な機能だと思う。坂を登っている時はこの表示がけっこう面白く、励みになる。注目されざるレア機能。
- フルドットマトリックスディスプレイ採用の割に、走行中に表示されるデータの場所や数、サイズ、表示内容等は「内容固定のセット選択」として選べても好みにカスタマイズすることはできない。例えばPowerが左上なのは表示内容が何だろうと固定。搭載しているCPUの処理能力問題もあるだろうが、実は斜度を表示する能力を持っているとか折角の多機能型なのだから「表示する値の選択」と「小さな字でいいから沢山の値を同時表示」が出来ると有り難い。この辺りは今後ファームウェアのアップデート(マイPCで出来るようになっている)で変わるかも知れない。
- データ転送は直結シリアル方式で、最初からUSBシリアル変換コネクタ付き。あまりスマートではないと思う。
- 赤外線通信機能が機械的には付いておりスペックシートにもちゃんと書いてあるが、実際は現在のファームウェアがこの機能を何ら使っていない関係で、折角付いているのに何にも使われていない。将来ファームウェアのアップデートでIrDAによるデータ転送対応予定とどこかに書いてあった気はするが。
- 軸長108mmISIS版BB部403.9g(ケーブル、センサー含む)のCPU部102.2g(ブラケット含まず)で合計506.1gとなる。チタンスピンドル採用の最軽量クラスISIS BBが130gちょいくらいだから、ergomoの長所が軽量にない事は間違いない。78DURA-ACEのクランクセットがBB含む実測で719.3gだったのでSTRONGLIGHT PULSIONのような軽量フルカーボンクランクにすると増量分は150g程度に抑えられそうだが、旧型のSRMより軽くスルーアクスル型のSRMより重い微妙な重さである。
- コンピューター部の接続ブラケット部はCATEYEのものをそのまま使用しているので、ハンドルの径が合わなかったり違う取り付け方法にしたかったような場合もCATEYEのブラケット部品を買えば容易に対応できる。これは良いところだと思う。(SRMは専用品を使い、それがまた意外と高い)
- 1秒計測で11時間以上記録できるメモリを搭載しているが、コンピューター部のバッテリーがそんなにもたない。
- マニュアルでBBセンサーユニットの取り付け角度範囲が指定されているが、この角度がずれると確かにパワー計測値がおかしくなり、車体左側面から見て時計回りにずれるほど高い位置で力が加わらないとパワーが下がる。例えば0度付近(つまりケーブルが出る位置が真上)に設定すると、クランクが真上に来たときに前向きの力を加えないロクなパワー計測値が出なくなり、逆に真上に来たとき前向きの力を故意に加えてやるとパワーの値がポンと向上する。どうやらこのケーブルが出る位置の前後の角度でBBに加わるねじれを計測しパワーとして算出しているらしい。
- マニュアルでは単にやり方を説明しているだけの「OFFSET SENSOR」調整だが実はこれが物凄く重要で、適当に考えているとんでもないパワー計測値が出る。これはBBの取り付け角度とも連動しているようなのでどの数字が正確と絶対値で導けるものではないが、経験的には数字が少なすぎるとスーパーマンとなり、多すぎると時速40km/hで連続走行しているのに60Wとかこれまた仰天するような数字が出る。真空の中を走っても60Wで40km/hは無理ではないか?またOFFSET SENSORの値だけでなく「0.33」「1.63」のような値で表示される「max」や「min」の数値も調整時だけ表示されるが、この数字の意味は何も説明されていない。maxの方がminよりも数値的に小さかったりすることが良くあるが、これもいいのか悪いのかよく分からない。しつこく繰り返してみれば分かるがOFFSET SENSORの値が920としてもmax=0.00 min=0.00で920の時とmax=0.83 min=0.21の時があって、実際計測される値も異なるのに何も説明がない。それはともかく、このOFFSETSENSOR値の調整こそがergomoがまともに仕事をしてくれるか否かの完全な分水嶺で、テストランを繰り返しある程度納得の行く数字が出るOFFSETSENSOR値が出せたら後はもうずっとそれを使い続けるのが良いと思われる。
OFFSETSENSORの値を巡っては本当に苦労した。OFFSETSENSOR計測そのものが毎回うまく行くわけではなくて「ERROR」で終わってしまうこともけっこうあるので、うまく行かない時は10回以上連続でERRORになったりした。またマニュアルでは正常なOFFSETSENSOR値が計測されていることの検証方法として右クランクを60回転させた時に○○w、左クランクを持って回転させたときに○○wと書いてあるが、こうなるような値を求めてテストを繰り返すと見事に泥沼で、全然うまく行かない。ちなみに1度4時間ほどかけてほんとうにそのような値になる計測値が出るまで頑張ったことがあったが、翌日実走してみたら全くデタラメなパワー値が出てハナシにならず、それ以来この検証方法は無視した。OFFSETSENSOR値は通算200回以上計測した。OFFSETSENSOR計測値がビッシリ記録された紙が今も手元にある。いやもう、我ながらよくキレずにやったと思う。この辺りで放り出してしまう人を私は責める気にならない。
そしてマニュアルにはどこにも書いていないような気がするが、OFFSETSENSORの計測は「開始時に右クランクがピッタリ3時」でないとまともな値が出ない(そして計測ERRORにもなりやすい)らしい事に遂に気が付いた。逆に、ギアをアウタートップにして計測せよと書いてあるがこちらの方は守る必要など無く、ようは「ギアを軽くして計測すると値が大きくなり、重くして計測すると値が小さくなる」傾向を持っているだけである事も気付いた。これを利用し、違う値を複数用意(バイクが99も設定できるので余裕である)しては実走行して各々の数字でどのくらいのパワー値が出るかのテスト結果と突き合わせ「このくらいの数字の時に自然なパワー計測値が出ると推察される」風に追い込み始めてから急激に作業が捗りだした。値さえツメると、納得の行くパワー計測値が出るようになってきた。
パワーメーターの意義は、パワーが「正確に」計れることではなくて「恒常性のある計測値で」計れる事にある。200Wと計測される運動をもう一度繰り返せば200Wと計測される恒常性があるからパワートレーニングが可能なのだ。絶対値として正しいかどうかはさほど関係がない。恒常性がなければ「へー」と見て楽しむだけの高価な玩具になってしまう。逆に、恒常性さえあれば絶対的に正しいかどうかはそんなに関係がない。
結局、赤外線通信が付いているのに使えるようになっていないとか、今年に入ってからでも既に3回ファームウェアのアップデートだとか、ergomoはまだプロトタイプで、取り合えず動くようになったからとそれを売り出しているのが現状だと思う。
“枯れている”度合いで見るとPowerTapやSRMにはおよそ敵わないと感じた。やはりSRMは伊達に高くないし、そのSRMとほとんど同じ計測値を出すものを作り上げたPowerTapも大したものだと思う。完成された機械が欲しい人にergomoはダメだ。ものの一週間もせずに頭に来て放り出す可能性は90%以上と見た。表示が物凄く見易いとかボタンが押しやすいとかリアルタイムの斜度表示機能とか、TSSやNPが走ってる最中でも見られる(これはSRMやPowerTapには出来なかったと思う)とか、細かいところではバックライトの点灯時間までカスタマイズできるとか、使い勝手の面では長所も少なくなく「ヤル気」は物凄く感じられ、後発の利点もあってコンピューター部の多機能ぶりは明らかに一番なのだが、全体として「完成していない」感は強い。右クランク3時スタート問題とか、気が付かなかったらまだ七転八倒していたと思う。なんでそんな大事なことが書いてないのだろうか。
ergomo、本当は「2007年発売」くらいにしておいた方が良かったんじゃないだろうか。
救いは、開発元がやる気満々で改良が続いており、まだまだアップデートされてまともになってゆくことが期待できることだろうか。
「ホイールを固定するわけにいかない」
「自分にとってどのクランク長が一番パワーが出るのか調べたい」
私には、現状他に選択肢がないのも事実だ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント