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2006年10月 3日 (火)

太い方が楽

自転車の世界では、動力もとが人間自身なので「気合い」とか「根性」とかの実体不明なもの一つで結果として物凄く差が付いてしまうところがあり、結果と理由の結びつけが科学的でないことがしばしばある。

何故ホイールテストの中間報告2がないのか、の理由も含めて、科学的な転がり抵抗・空気抵抗の話。

この手に関しての研究は、エコラン関係が図抜けている。

1リットルのガソリンで4000km走ろうとする世界なのだから、1%の差があったらゴール時10周差になったりしてもう勝負にも何にもなったもんじゃない凄まじいレースである。たった0.1%の差があるだけでゴール時は何kmも差が付いてしまうのだから途轍もない。0.1%の実力差が相手の後ろ姿すら拝めない大差となるエコランの世界では、0.1%を誤差と侮る人間は100年やっても勝てない。

エコラン・エコカー関連サイトを捜して貰えれば色んな面白いデータが見つかるので、是非とも探索をお勧めする。

タイヤ・ホイール

  1. タイヤは太ければ太いほど方が転がり抵抗が減る。走行時、タイヤが変形することでヒステリシスによるエネルギーロスが発生するが、同じ重量を支えるとき、太いタイヤほどこの変形度合いが少なくなるからだ。ただし太い方が空気抵抗は増える。細いタイヤの方が有利なのは空気抵抗だけで、それ以外は太いタイヤの方が全て上回る。
  2. 上の理由によるものに違いないが、同じタイヤならリム幅が広い方が転がり抵抗が減る。(WOタイヤの話)
  3. 空気圧は高ければ高いほど転がり抵抗が減る。
  4. 回転させることで振動するホイールを使うと転がり抵抗が増える。
  5. チューブは薄ければ薄いほど転がり抵抗が減る。
  6. チューブレスの方が転がり抵抗が減る。
  7. 擦り減ったタイヤの方が転がり抵抗が減る。
  8. 気圧、気温、湿度、高度は転がり抵抗に影響しない。
  9. チューブ素材はButylよりもLatexの方が転がり抵抗が減る。

全部、思い込みとか伝承とかじゃなくて実験結果。何故なら「こうであってほしい」「こうなんじゃないか」で勝てるほど甘い世界ではないからだ。しかもエンジンで走っているから根性が売るほどあっても車体を前に進めるのに何ら貢献しない。

 タイヤを使って走ることとは、冷静に観察するとタイヤを押し潰す行為を連続して繰り返すことであり、当然ながらエネルギーを消費(浪費)している。同じ重さを支えるときに、より大幅に潰れるタイヤ(=細いタイヤ)が有利な要素は、空気抵抗が少ないこと以外何一つない。しかも同じ面積だけ潰れる場合、細いタイヤほどより前後に長く楕円状に潰れるので「同じ場所の潰れている時間が長い」のだ。これが細いタイヤのエネルギーロスを大きくする。太い方が「摩擦」が大きいのではないかと「印象」で語る人もいるが、脳内で勝負しないで実験してみるとそれが想像による過誤に過ぎない事が分かる。太いタイヤの方が転がり抵抗が大きいとする論拠は、結局見た目のイメージから来る「そんな気がする」に行き着いてしまう。細いタイヤを押し潰しながら走る方が転がり抵抗は大きいのだ。

なお、鏡のように平滑な路面と全く変形しない車輪(それこそ電車のような。電車の車輪も厳密には変形しながら走っているので仮定自体があまり現実的ではないのだが)を用いると細くても桁違いに低い転がり抵抗が得られるが、路上では不可能であるし、凸凹した路面(現実の路面は全て凸凹している)で全く変形しないタイヤ(車輪)を用いると、ロスするエネルギーはタイヤの変形によるロスで済まず車体を持ち上げるのにエネルギーが使われてしまうため、エネルギーロスが著しく増加する。これが、色んな空気圧を試してみた人が経験的に知っている「空気圧はある程度までは高い方が速く走れるが、あまりに高すぎるとむしろ速く走れなくなる」理由だし、空気の入っていないタイヤが特殊な用途以外で使い物にならない理由。

ロードレースで使われるチューブラータイヤは22cが主流で20cや19cのような細いタイヤはまず使われない理由も、転がり抵抗で損をするからだ(小柄軽量な選手が時々20cや19cを使うことはある)。トラック競技の場合は路面が一般道とは比較にならないほど平滑であるのと、多くの場合ドラフ ティングが出来ないため細いタイヤで少しでも空気抵抗を減らそうとする。だがタイムトライアル用機材でさえ最近は22cに最適化されたエアロホイールが登 場するなどタイヤを太くする傾向にある。4の理由により、ホイールの回転バランスを取るのは気分の問題ではない。

分厚いチューブ(しかもButyl)を使用している事で知られる異色のチューブラータイヤContinental Competitionが何故か体感で良く転がるのは、柔らかい低転がり抵抗コンパウンドを用いる事で1の理由によるロスが少ないせいだと推察される。だから寿命がやけに短い(物凄い勢いで減る)。太い割に高い空気圧に耐えるので3の点でも有利だ。が、このため空気圧が低いと転がり抵抗が急に増える可能性がある。逆に細いVELOFLEX Servizio Corseがよく転がるのは、5、チューブが薄い。しかも9、Latexチューブである。7、トレッド面が最初から物凄く薄いので減ったタイヤと同じ。だと推察される。新品タイヤを有り難がる人は多いし劣化やパンクリスクを考えてもごく自然な感情だと思うが、速く走るためには実は使い古して減ったタイヤの方が有利(フラットが出来てしまっているものは4の理由でダメだが)である。エコランでは新しいタイヤが練習用で使い古しこそ競技本番用と一般的な自転車乗りには驚きの使い回しが行われる。なんせ新品タイヤを自動で擦り減らし早く中古にするための仰天「自動中古タイヤ製造装置」が使われたりする。さすがに表面のコーティングがまだ残っているタイヤでレースに出るのは素人だろうが「すり減って退役寸前のタイヤでレースに出るなどどうかしている」と考えるのがほとんどの自転車乗りの自然な感想だろう。だが、実はその方がよく走るのだ。「常識」では信じがたいだろうが、車体は常識で走っているわけではなくて物理法則で走っているので、物理法則に反した常識を幾つ持ってもそれは精神的贅肉であって役に立っていない。

空気抵抗

  1. 気圧が低いと空気抵抗は減る。
  2. 気温が高いと空気抵抗は減る。
  3. 高度が高い(=空気密度が低い)と空気抵抗は減る。
  4. 湿度が高いと空気抵抗は減る。
  5. 空気に垂直暴露しているシャフトの類はかなり盛大に空気抵抗を発生する。
  6. タイヤはカウルで覆うと空気抵抗が減るが、カウル形状を誤ると元よりもむしろ空気抵抗が増える。
  7. 車体の空気抵抗の大小には後端の形状がかなり大きな影響を及ぼし、比較写真で見ないと分からないような少しの違いで何%も増減する。

高度、気温と空気抵抗の関係は有名だ。
ランス・アームストロングは、個人タイムトライアルの時に走りながらでもエアロスキンスーツのお尻の辺りをちょくちょく直す謎の行動が知られていたが、これはどうやら7に由来している。風洞実験を積極的にやった選手としても知られるランス。自転車の中で最も巨大な空気抵抗(全空気抵抗の60〜70%を占める)を生んでいるライダー自身の末端つまりお尻の辺りの空気抵抗処理が大事である事を風洞実験で確かめていたのだろう。彼が着ていたNIKE製エアロスキンスーツは場所によって素材が変えられている。これは風洞実験を行って必要な空気抵抗特性に応じて最適化されたものだが、折角そのように開発したスーツの機能をきちんと発揮させようとしたのが、時々お尻の辺りを直すあの不思議な仕草になっていたのだと思われる。つまり「車体後端の形状」だ。なお尻の辺りの空気の流れを何とかすると大きな効果があるのは、かつてそのような目的の異形サドル(アピュイドセル)が作られTTでいきなりデビューウィンし速攻でUCIから使用禁止になっている事からも伺える。5の理由により軒並み扁平チューブ採用フレームが増えてきたのは間違いない。エコランでも、解析の結果「たった1本の垂直暴露している円断面パイプが車体の全空気抵抗の約70%を占めていた」ような驚愕の例があるそうだ。これは他が徹底的に最適化されているせいだろうが、凄い話である。エアロスポークやエアロシートポストは馬鹿に出来ないのだ。ZIPPが、そしてあのCampagnoloでさえハブにディンプルを付けてきたのも、見た目よりは馬鹿馬鹿しくない。ハブは空気に対して垂直暴露している円筒だからだ。最近SHIMANOやCampagnoloがハブの“太胴”化を推し進めている。これは同じ素材で作るなら軽量化と高剛性化を両立するものだが、空気抵抗の観点から見た場合はマイナス要素である。なおUCIの規定により135mm以上と110mm以下のリアエンド幅は認められない(レースをしたり顔で語る人でさえ知らない人が多いが、こんなつまらん事までいちいち決まっている)が、できるならもっと狭くしたいメーカーはあるだろう。

知れば知るほど面白い。
謙虚な気持ちでもっと知りたいと思う。

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コメント

LIVESTORONGさんはじめてメールさせいただきます

いつも楽しく読ませていただいております、そして、内容にいつもびっくりしています。
僕は13年間トライアスロンを遅いなりに努力をしている者です。

今回ビックリさせられたのは、タイヤは太いほうが楽ということです、タイヤは細いほうが、楽にみえますが、、、、。今チューブラーを使っていますがリム自体は、太くても、細くても、変わらないのでしょうか?
いつもレースではTUFO S3-LITEを使っていますが、次回はコンチのコンペ21Cを使わせていただきます。(23より21の方が使い勝手がいいでしょうか?)

本当にいつも勉強になり頭が下がります

教えてくださいよろしくお願いします。

KAZU

投稿: KAZU | 2006年10月 5日 (木) 17:20

KAZUさん、はじめまして
これからもよろしくお願いします。

「タイヤは細い方が良い」は、ロードバイクに関する都市伝説で一番根強いモノではないかと思います。

細い方が当然軽くしやすいのと前面投影面積が減る分だけ空気抵抗が減りますが、転がり抵抗そのものは太い方が低いのです。これはきちんと実験してみると必ず実証される「不思議でも珍しくもない当たり前のこと」らしく、世界中のあちこちに太い方が転がり抵抗が減る実験結果が公表されているサイトを見ることが出来ます。結局、タイヤを細くするとほぼ正比例してリム最外周が軽くなるので踏み出しは軽くなり、体感として軽くなった気がする(これは気のせいではなくて実際に軽くなります)ため、結果と理由のミッシングリンクが起きてこの都市伝説が生まれたのでしょう。同じ重さで太いタイヤを作ることが出来れば、太い方が走りも軽くなります。これはもう頭の中で云々とか気分とか体感の話ではなくて「実験すると必ずそうなる事実」です。

チューブラータイヤのリムの太さは、主に空気抵抗に関係します。特にエアロリムは想定されているタイヤの太さがあり、そこから外れると本来の空力を発揮しません。例えばHed.のStingerなどは「このホイールのエアロダイナミクスは22cのタイヤに最適化してあり、19cのタイヤを使用すると悪化するので使わないように」と但し書きがあります。

なおContinental Competitionは19cと22cのラインナップになっています。19cはけっこう癖があります(ハンドリングが神経質)ので、トライアスロン、特にロングの長丁場にはあまりお勧めしません。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2006年10月 6日 (金) 22:59

どうもです。

「分厚いチューブを使用している事で知られる異色のチューブラータイヤ」とのことですが、コンチネンタルのコンペティションをばらしてみたところ、薄めのチューブが入っていました。
下位グレードのスプリンターとはハッキリ違うくらいの薄さで、厚さだけ見ればビットリアのコルサEVOシリーズと同じくらいです。
仕様変更とかあったのかも?

投稿: アンタレス | 2009年7月12日 (日) 00:41

はじめまして。
大変参考になりました。
昔の記事への質問で申し訳ありませんが教えてください。
一方は700Cの25Cで車輪の直径668㎜。もう一方は26インチの1と3/8(いわゆる650A)でこちらも直径668㎜。
両方の重量が同じなら、26インチの方が転がり抵抗の面では有利という考えでよろしいのでしょうか?
実地では、26インチの方が下りでは速いような印象をもっていたのですが。

投稿: ナカノ | 2012年1月21日 (土) 01:28

「他の条件が同じ」であるなら太いほうが転がり抵抗で優位なのが理論的に正しく、またちゃんと実験すれば必ず出る結果です。

実際には細いタイヤの方がケーシングを薄く作り易かったり空気圧を高くし易かったりと色んな条件が絡むので、太くすることで優位になる要素と太くすることでマイナスになる要素のバランスする点が存在しますが、このバランス点も技術の進歩と共に次第に太くなってきて(=理屈に適ってきて)います。2012年初頭現在ロードレースでは22c〜23cくらいが主流ですが、タイヤ製造技術が進歩して太くても軽くて薄くて強いタイヤが量産できるようになれば25cくらいが主流になってくる可能性は極めて大です。
実際そのようにしてだんだん太くなってきたのがタイヤの歴史です。そしてそのままでは空気抵抗が増えるのですが、太くなったタイヤに対応する、より良い空力性能のホイールが進化してきました。

投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2012年1月30日 (月) 18:17

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