48x34
国内でシーズン最後にして最大(ワンデーとして)のレースイベント、ツールドおきなわ。
市民200kmで勝った高岡氏の機材が興味深かった。
何と、チェーンリングが48×34!なのである。
身長175センチ、クランク長は172.5mmだから決して「非力な小さい人」ではない。それどころか体重61kgと安静時心拍の36は、心拍数の絶対値には大幅な個人差があるので数字だけを比較するのは馬鹿げている事を置いても「絞り込まれた体と鍛え上げられた心肺能力の持ち主」である事を伺わせる。そもこの高岡氏、普通の自転車好き素人とはかなりレベルが違う人物で、かつて世界選手権ロードU23の代表に選ばれた事もあるほどの逸材だから「モノが全然違う」と評価していいくらい違う人物だろう。
でも48×34なのである。
案外スプロケットは11〜21だったりするかも知れないのだが、それにしても潔い。
このあたりが強い人らしいなと恐れ入った。
カッコウ付けで走っている人間は、50T以下のチェーンリングを使うことを格好悪いと思ったり遅そうに思えたりしてしまう。違う。速そうに見えるか遅そうに見えるかじゃなくて、速く走れるかどうかが速いか遅いかを決めるのだ。
「日本人はすぐクルクル回す事を考えるけど、重いギアを速く回さないと速くならない」
とか、分かった風な事を吹聴する人は物凄く多い。その手の話は私が直接耳で聞いただけでもかなりの数に上る。だがクルクル回す事に最初にこだわりだしたのは日本人じゃないし、私の周りにも回転重視のロード乗りなんて全然いない。回転を重視する私は異端児だ。そしてプロの選手が重いギアを回せるのは不思議な話ではない。プロ野球選手が速い球を投げるのと一緒で、回せない人間が淘汰されるサイクルを繰り返した末に重いのを回せるヤツだけが生き残ったプロなのだ。そこを勘違いするな。プロ野球も遅い球しか投げられず打ち込まれるヤツはみーんな淘汰されて生き残った人間だけでやっているから140km/hが大して速く感じられないだけで、実際にナマで見たら130km/hでも素人には殺人的に速い。そのような淘汰のサイクルを勝ち抜けるくらいの才能の持ち主でないなら、重いのは回せないのである。自転車の場合、そのあたり勘違いしやすい。野球みたいにはっきりしていない。全然使いこなせてなくても52×39の12〜23で道は走れる。だがそれは自分のモノにしているのとは違う。ケイデンスが60とか70でもいいなら、私だって54Tのアウターを装備しても問題ない。それこそ30km/h以下で走るのならどんな素っ頓狂な機材で何したって不都合は何もない。
「日本人はすぐコントロールとか投球術とか…」と吹聴するのは簡単なのだ。
130km/hの球を投げるのすら、才能のない人間が努力して目指したって無駄なのである。肩を壊すのが関の山。それが現実だ。若い奴は夢を見がち(若さの特権だが)だから、何の根拠もなしに人に出来ることは自分にも出来そうな気がしたりするのは珍しい事ではないが、才能はその人間が自分をどう認識しているかと無関係に天与される。私の身近で最も速い球を投げていた知人は、高校に行く前にあっさり音楽の世界に行って野球から足を洗った。それを才能の浪費だとか勿体ないとか何とか評するのは簡単だが、音楽をやりたい人間に野球の才能が多少あっただけで当人には甚だ迷惑な話だったかも知れぬ。そして才能とは求めるから与えられるわけではない。高校時代の野球部のエースはそこそこ親しかったので彼がまさに血が滲むほど努力していたのを私は知っているが、それでも彼の球速は130km/hに届かなかった。いわゆる「技巧派ピッチャー」なのではない。トレーニングにトレーニングを重ねての全力でそのくらいなのだ。才能がない人は何したって130km/hも超せないのだ。勿論甲子園など夢のままで終わりである。もう少し上の話だと、知り合いに高校時代、夏の甲子園で大阪大会の準優勝まで行った、つまり甲子園までまさにあと一歩だった人間がいる。しかも超激戦で知られる大阪大会の話だ。が、彼もその後野球からわりとあっさり足を洗って現在に至る。なんでも「対戦して“ヤツは凄い。敵わない”と思った人間が、プロに入ったら全然活躍できずに辞めていくのを何人も見るうちに、自分の限界を悟りました」そうだ。素人同士で人と比べての優劣など、まさに絵に描いたようなドングリの背比べ。上には上がいる事を知っている人間は偉そうに分かった風な事を吹聴しない。
U23の世界選手権ロード代表に選ばれたほどの才能を持っている人間でも、いやそれだからこそ冷静に自分の能力を測って48×34が使えるのだろう。ナカミがあれば意味のないところで格好を付ける必要がない(耳が痛いが)からだ。高岡氏に脚力がないわけではない。なければ、あれほど参加者のある200kmのレースで優勝するにはそこそこ以上の参加選手が根こそぎリタイアする必要がある。必要なのは48×34じゃなくて大規模な毒盛り作戦だ。
世界戦の代表にまで選ばれたエリートなのにどうしてレースから足を洗い単なるホビーレーサーになったのか、の理由は前述のようなものかなと思う。世界戦まで行った人間だからこそ「重いギアを速く回せないと…」的なあほくさい常套句を1万回唱えても全く敵わない存在を肌で知ったのではないか。自分より重いギアをより速く回せるとんでもない連中と実際に対戦したのだろう。それは高岡氏のレベルだからこそ知り得た「現実」かも知れない。
プロの場合はスポンサーの関係もあって必ずしも勝利に徹底することが出来ない(勝つために他を全部擲ってやっているプロなのだが、その割に勝つために何をやってもいいわけではないアンビバレンツな存在でもある)のだが、素人衆(私だ)は、結果を出したかったらもうちょっと己を知った方がいいんだろう。高岡氏の勝利はそれを証明しているように思った。
結果を出したいのか、カッコウ付けたいだけなのか、はっきりする必要があるだろうな。
カッコウ付けて勝つのは、プロの仕事。
どうでもいい事にこだわって時間や労力を浪費するのはアマチュアの特権だけど(笑)
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コメント
高岡選手。懐かしい名前を聞きました。慶応大の頃はU23の日本代表にもなっていましたが、最近全然聞かなかったので、引退したんだろうと思っていました。外資の証券会社にいるそうですが、時間の使い方は相当な努力をしていると思います。
サイクリングタイムにレポートが出ていましたが、前48-34、後はご指摘のように11-21のようです。
投稿: ゴメス | 2007年11月17日 (土) 21:50
高岡氏のブログによると48×11があれば60km/hオーバーの下りでも問題無いそうです、
それよりもいかにクロスレシオにして走りやすさを追求してるみたいです。実際に沖縄の使用は11-21のようです
投稿: アッキー | 2007年11月17日 (土) 22:42
皆さん今晩は。
やっぱりそうですか。
48×11は52×12よりもハイギアードなのは、小学生の算数が出来る人なら分かることですね。
わたくし、「普通の人」は46×34でも十分じゃないかと思う今日この頃です。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2007年11月17日 (土) 22:58
毎回楽しく拝見しております。
私は本職はトライアスロン(エイジ)ですが、平坦の勝負ギアは50T×36T-11-23ですよ。
これでも十分坂は上るし、65km/hの下りにも対応できます。(50-11のMAXは72km cad140くらいかと。)
私は思うのですが、なぜ、市販のギアはアウター52とか53なんでしょう?こんなギア使いこなせるのは、プロ又は同等の力を持った、非常に限られた1部の人たちだけだと思うのですが。。。
(ちなみに、素人の私は、50Tでも35km/h程度なら、リア15~16くらいで十分です。)
投稿: allmalt55 | 2007年11月17日 (土) 23:38
こんばんは。張本人です。いつも楽しみにしているブログで自分の名前が連呼されていてびっくりしました。
下りに関しては昨年のおきなわでは同じギアで78.4km/h出てました。ここら辺になると数秒全力で回してあとはひたすら身を屈めるだけですね。
むしろ問題になるとしたら追い風の平地や緩い下りで60km/hオーバーでずっと進む局面ですね。しかしホビーレースではそこまでの速いレースはないと思います。
色々考えた結果、私の場合スプロケットの組み合わせからフロントのチェーンリングが決まってきました。
あとトライアスロンに関してですが、こちらには大きなギアを使う理由はあります。一般的にロードレースよりも使うギアのレンジが狭いと思います。例えば私の場合平地では53-16前後を多用しますが、これが前46Tだと後ろは14Tくらいのギアになります。この二つの組み合わせを比較すると、ギアを一段重くした際の変化が53Tの場合(16→15)の方が46Tの場合(14→13)よりも小さくなります。
そんなわけでIRONMANをかじった時に、53Tの方がいいなぁと感じました。
長文で失礼しました。是非お時間あるとき私のブログにも立ち寄ってみてください。
投稿: RoppongiExpress | 2007年11月18日 (日) 00:45