ヨハンの本
日本では滅多にお目にかかれない「プロツアーチームの監督が書いた本」である。
Lance Armstrongと“二人三脚”でLe Tour de Franceを7連覇し、その間にGiro d'Italiaも同チームのPaolo Savoldelliで制し、Armstrong引退後もGiro d'Italia及びVuelta a EspanaをContadorで制するなど9年間でツールを8勝、グランツール計11勝する不滅の金字塔を打ち立てたことでお馴染みの静かなる名監督、Johan Bruyneelによる著書。
原題「WE MIGHT AS WELL WIN」
「OVERCOMING」を観ても思ったのだが、どんな業界であっても表に出ているものと裏舞台とはそれなりに違うものだ。監督が何を考えどう動いているかと、観客にどう見えるかは別なのである。
現役時代も戦略的走りで勝利を挙げた選手だし、外面からは決して激しそうには見えないBruyneelだが、やっぱりこれだけ勝ってきた監督だ。読むと「勝つために邪魔になるものは全部徹底排除する」人だった事が分かる。なんせ、個人TTの前日にその後のステージの事を考えてアシスト全員に「全力で走るな。勝ちを狙うな」と指示できるのだ。それが残酷なチームオーダーだと分からないから指示できるんじゃあ、ない。とても残酷で、選手がその指示でどんな思いを抱くかを分かった(なんせ自身Le Tour de Franceでステージ2勝を挙げているし、Maillot Jauneだって着たことがあるレベルのレーサーなのだから)上で、それでも勝利のためにあえて自分が悪者となって指示できる精神力を持っている。
常に「いい人だと誉められるためにやってるんじゃなくて勝つためにやってるんだ」とはっきり認識して行動し、その軸が一切ブレない。
呆れるほど徹底したLe Tour de France実コース練習走行で知られたLance Armstrongの、病的なまでに徹底した走り込み。あれを思い付いたのもBruyneelだし、それをBruyneelの予想以上にこだわってやり抜くArmstrongのしつこいまでの走り込みに一言も文句を垂れずに付きっきりでサポートしたのもBruyneelである。とにかく、勝つために必要な事は全部きっちりやる。それを口だけでなく行動でやりぬく人物だ。
余り知られていないと思うが
・チームのメンバー「全員」に無線機を渡した最初の監督
・無線機の本体を入れるための背中の内ポケットを発案し、メーカーに作ってもらった監督
はBruyneelである。
かの「Project F-1」が結成された一因ともなったのが、2003年のLe Tour de FranceでJan
Ulrichが駆って個人タイムトライアルでArmstrongを破ったWalser製TT用フレーム(一応「Bianchi」と書いてはあったが)の存在であることも言
及してあるなど、日本の自転車雑誌だけを読んでいたら死ぬまで知らずに終わる事がフツーに書いてあるのも面白い。あの自転車がBianchi製などではなくWalser製であったこと、そして当時ヨーロッパのレース界でWalser製TTフレームの高性能ぶりが大いに話題になったことをはっきり書いてある本は、日本語で出ている(日本語に訳してある)本ではコレが唯一だと思う。
色んな「へえー」「すげえ」に溢れた本だ。
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