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2008年12月25日 (木)

Bontrager Aeolus 6.5

このホイールについての蘊蓄を持っている人なら必ず知っている通り、ギリシャ神話の風の神の名前を冠名されたホイール、Aeolus
Lance ArmstrongLe Tour de Franceで勝たせるために作られたホイールである。

Aeolus_rim

写真に「HED.」と写っている通り、これはコラボ商品だ。

  1. Bontragerが、XXX Liteと同じ製法でリムを作ってHED.に送る。
  2. HED.がリムを受け取り、空力効果を生み出す「カウル」を取り付けてBontragerに返す。
  3. Bontragerがホイールとして組み立てる。

のような手順を経て製造される。

特徴的なのは、22〜23cのタイヤに対して最適化され、それより細いタイヤを使うとむしろ空力が悪くなるエアロ形状であること、前後16本とUCIのルール上ロードレースで使える最も少ないスポーク数であることだろう。当初Le Tour de Franceでデビューした時は、単にAeolus。後に「6.5」と呼ばれるようになる壮観な65mmハイトだった。後にもうちょっと控えめな「5.0」が追加される。またアメリカ国内の事情(チューブラー仕様のホイールはオプションとして売れても標準装備品として売ることができない)を鑑みてクリンチャーバージョンも加わった。

スポーク数に関しては詳しく知らない人が大半だが、現在UCIルールに則ったレースでは

  1. ロードレースにおいては、最少スポーク数は16本。それ以上スポーク数の少ないホイールは認められない。
  2. リム高さ25mm以上のホイールは全て個別審査を経て認定を受けなければ使用は認められない。

の2つがルールとして課せられている。前者はかつて一世を風靡したSPENERGYの「Rev-X殺し」ルールとして有名になった。可哀想に、その後SPENERGYは二度とかつての勢いを取り戻せず現状に至る。

後者がいまいち意味が分からないかも知れないが、ようは出来合いのアルミリム、MAVIC OpenPROであるとかDT RR1.1であるとかで手組みしたホイール以外全部要個別審査ってことなのだ。本当は全部審査にしたいんだろうけど、古典的な手組みまで審査の必要はなかろうと「25mm以上」としたわけだ。ほとんどのファクトリーコンプリートはこの25mmに引っかかるから、うまいルールではある。

話がUCIルールの方にそれたが、現状のルール内で最も空力の良いロード用ホイールを作ろうと思ったら「F16本、R16本のディープリム」以外の解はない。ルールが決まっちゃってるからね。かつてSHIMANOが77系ホイールでこだわったF16/R16も、ルール内で最高の空力を得ようとしていたからなのは間違いなかろう。

そして、77系ホイールで話題になったあの超個性的な組み方の元祖たるRolfを買収して子会社にしたBontragerが、Rolfの組み方で出したエアロホイールがコレだ。「カウル」のボリュームは特徴的でかなり体積があり、かつ内側が丸まっていて尖っていないのがポイント。これは斜め前からの風を受けた時の空力を良くするための処理なのだそうだ。なおカウル部分はペットボトル並みの強度しかないベコベコで、BORAであるとかSHIMANO WH-7850C-50-Tuであるとかのリムを触ってみた事がある人にしたら衝撃的(笑激的?)ではないかと思う。

リクツはともかく、乗ってどうか。

  1. 縦方向の剛性は高い。リアの16本スポークが誰しも気になるところだろうが、意外なくらい踏み込みの反応がよい。
  2. 横風に意外と弱くない。6.5で、例えば橋の上のような、ディープリムで走り込んでいる人なら一瞬でピンと来るディープリムに向いていないヤバい場所でも「ぐあっ!」と思うほど持って行かれたことは一度もない。一瞬も気を抜けないiOに比べればカルいカルい。5.0なら普通のホイールと思って使っても何も起きないんじゃないか。
  3. 35km/hくらいから違いを感じる。そのあと50km/hくらいまで「にゅるー」っとした感じで伸びていく。iOのように綺麗にシュパーっと伸びるのとは違う、抵抗が無いわけじゃないんだけど何かに当たっている感じもしない独特の感触で「切り裂く」とか「すり抜ける」んじゃなく「かわすのがうまい」ような感じで、平地で速く走ることのストレスが物凄く少ない。平地主体のコースならこれは超有り難いだろうと思う。
  4. 太いタイヤを使えるのは有り難い。
  5. ダンシングすると希に何かの拍子にリヤに「ふわっ」とした感触が来るときがある。やはり横剛性、特にリアのは「捨てて」いる部分があるんだと思う。16本しかないリアのスポークは全て駆動トルク伝達優先の組み方になっているからだ。自転車を振り回すような乗り方をする人にこのホイールはダメだな。
  6. 私の知る限り、最強にブレーキが効くカーボンリムである。むちゃくちゃよく効く上にコントロール性もいい。この強烈な効きとコントローラビリティは総合的にカンパのHYPERONをさえ上回る。実はこの話のためにリム部のアップ写真をあげたのだが、リムのブレーキサイドに細かい目があって、これがブレーキの効きに貢献しているようだ。反面、この「ヤスリ目」で性能を出しているので、シューの減るスピードも最強(最悪)で、凄い勢いでブレーキシューが減ってゆく。これはもう効きとのトレードオフだと思う。とにかくブレーキがよく効くので日常使用するのに不安感が全くない。雨の日の効きまで図抜けている。ちなみにこのヤスリ目のお陰でブレーキシューはいつも綺麗な状態が保たれ、こんな風になったりしない。これも効きがよい原因だろう。
  7. 2本一組の独特の組み方は面白い。スポークがいまどきのファクトリーコンプリートとしては極めて珍しい事に全くのドノーマルで、ストレートプルスポークを一切使っていない。少ない16本スポークでやりくりしているのだからストレートプルスポークを使えばいいのにと不思議。そうすればリアの横剛性も少しはマシになるだろうに。
  8. リアは、ラージフランジではあるが敢えてナローフランジ化してあるなど明らかに「前進力重視!横剛性には目を瞑る」作りになっている。

「同じエネルギーなら他より前へ進む」ことをとにかく最重要視して作っている感じだ。平地を黙々と逃げたい人間には最強の相棒。トライアスロンで使っている選手がボチボチ見つかるのは当然だと思う。ゴールスプリントでもがくのには、そのような状況下でもモーターのように脚を回す能力を備えた超一流乗り手でもない限りあんまり向いてないかもだ。無茶苦茶にガッツンガッツン踏むホイールではない。

Aeolus_r

こんなんで大丈夫かオイ!?と思うほどあっさりした16本スポークのR

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コメント

お疲れ様です。
今年のホノルルセンチュリーライドはこのホイールで走りましたよ。
それまではWH-7801Duraだったんですが、色々悩んで初めてのカーボンディープリムにアイオロス6.5を選びました。理由はOCLVで多少のブレーキや衝撃にも強い?かなっと思った事と見た目のディープさに惚れました。
Duraとは違うフレームでの比較ですが( Duraは06ジャイアントFCRコンポジットでアイオロスはZiPP2001です )初乗りのアイオロスは踏んだ瞬間、あれっ?と思うくらい軽くギア2枚くらい違う感触でした。錯覚かもしれませんが(^^;
フレームとカーボンリムとの組み合わせの為かかなりソフトな印象でしたがフワフワ感はなく軽快に良く進み、ホノルルは去年よりかなり楽に走れました。

投稿: ZiPP2001 | 2008年12月25日 (木) 22:49

久しぶりの力作楽しませていただきました。

自分はBontragerのRACE X LITE AERO CARBON(長い)を所有しているのですが、リム以外の構造はほぼ同じであるためか概ねLiveStrongさんが書かれているのと同じような感覚でした。
海外サイトでのホイール空力テストで、RACE X LITE AERO CARBONはそこそこの位置でしたが(http://www.rouesartisanales.com/article-15505311.html)、Aeolus 6.5はリム分でどのぐらい性能向上しているのか気になるところです。

ところで、以前のホイールテスト記事に書かれていてトップだったVUELTA CARBON PRO WRはUCI的にはだめなんですね。
ちなみにRACE X LITE AERO CARBONの実測重量はF630g/R831gでした。ダイナミックバランスがクソだったため調整したので実際の使用においてはもう少し重いです。

投稿: ぶち | 2008年12月26日 (金) 11:45

私が始めて使ったカーボンホイールが、このAeolus6.5でした。
走ってみて、「あれ? 思ったほど風に煽られないな」「ブレーキもなかなか良く効くし」と感じたのですが、この2つ(特にブレーキ)に関しては、Aeolusは優れていたのですね。
2階建て構造でちょっと重量はありますが、逆にカウルがスポークに引っ張られる事がなく理想的なエアロ形状を実現できている、という感じなのかも知れませんね。

投稿: アンタレス | 2008年12月27日 (土) 07:00

毎度です。

BONTRAGERのカーボンリムは、とかくブレーキが良く効きます。

XXXを使用中ですが、シマノに比べても、かなり差があります。

XXXも、リアドライブ側は引っかけです。
アルミリムのX Liteも同じ構造ですので、
単にコストの問題ではないか?と思います。
ストレートプルスポークにすると、ハブの構造が複雑になってしまいますので。

投稿: Carbon_Cloth | 2008年12月27日 (土) 09:34

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