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2009年1月28日 (水)

ある終わり

F1000075

その閉店は、新聞記事にもなった。

「閉店することが新聞記事になる、個人商店果物屋」は、かなり珍しいと思う。

寺町二条交差南東角「八百卯」

有名になった原因は一にも二にも梶井基次郎の短編小説「檸檬」である。個人的には「檸檬」はなんであんなに持ち上げられているのか謎で、梶井は他に幾つももっと素晴らしい傑作があるのにと不思議なのだが、有名なのと特定の場所に人を行かせるパワーがあったのは事実だ。

丸善の洋書コーナーに爆弾を置いてくる気分でレモンを置いて帰り色々と想像に耽りながら帰途につく梶井だが、そのレモンを買い求めたのがこのお店、八百卯だ。丸善京都店が閉店になった(2009年1月現在カラオケ屋に化けている)時も梶井の話は出たが、丸善の場合、梶井の小説に出てきた「気詰まりな」丸善は小説史に詳しい人なら知っての通りとっくの昔に無くなっており、河原町通に面した丸善は移転した店舗だった。それでも閉店まで檸檬爆弾(笑)を置いて帰る奴があとを絶たなかった。夭折の天才、梶井の影響力恐るべし。

八百卯の方は明治12年の創業から四代に渡ってずっとここで営業してきた、梶井が実際にレモンを買った(あの小説が梶井の想像上のものではなく実際の行動に基づいたものだとしたら)お店だった。私にとっては単なる小説の登場店ではなく、自宅から最も近い青果店としてリアルな「お店」でもあった。閉店理由は金融危機でもなんでもない。四代目のご主人が08年末に倒れ、まだまだ現役の筈だった63歳にしてそのまま亡くなってしまったのだ。1月25日、閉店を知らせる張り紙が出た。

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26日の新聞に載ったため、27日は朝から文学ファン?京都ファン?と思われる人々が八百卯の写真を撮ったりしていた。ワタシもその一人か。

「歴史の生き証人」だった存在が、いきなり消えてしまう。

考えてみれば「教科書に出てくるくらい有名な文学小説に出てくるお店で、今も営業している店」など、そうあったもんじゃない。

そんな100年以上続いた名店も、終わるときは一瞬。

生き証人であることの貴重さと脆さを教えて貰った。

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コメント

らき☆すたを思い浮かべてしまった私って一体・・・

投稿: Y.Saito | 2009年1月28日 (水) 18:27

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