グッバイ、ハミルトン。
Tyler Hamiltonがドーピングチェックに引っかかり、DHEAを摂取した事を自白。現役引退も同時表明した。
Tyler Hamilton 38歳。
波瀾万丈の現役生活を送った選手である。
Le Tour de France好きの間では「落車して鎖骨を骨折しても走り続け完走し、しかもただ完走したのではなくオドロキの総合4に入った根性の選手」として印象深いのではないだろうか。USポスタル、CSC、フォナックと一流どころのチームを渡り歩き、グランツール総合優勝はさすがにできなかったが、ジロで僅差2位になった事もある(優勝Paolo Savoldelli)など「あと少しの幸運があればグランツールで総合優勝できていた」クラスの選手で、その他のレースでも結構な実績を残し、Criterium du Dauphine Libereクラスのレースでは何回か総合優勝しているし、アテネオリンピックのロード個人タイムトライアル金メダリストである。じっさいCSC在籍時はエース指名されていた。
だが、Hamiltonに詳しい人ならこれも既知の事だが、Hamiltonはその実績やファイティングスピリッツ溢れる走りよりも何回もドーピング渦を起こした事で知られる選手である。
CSCを放逐されたのも、Bassoの台頭があったにせよ明らかにドーピング問題だ。行った先がPhonak(Floyd Landisのドーピング渦によりチーム消滅)なのは何だか皮肉だが。
アテネオリンピックのドーピングチェックが彼のドーピングを検出できなかった(この時は本当にしていなかった可能性も十分あるが真相は本人のみぞ知る)のが話をややこしくし、オリンピック直後に行われたVuelta a Espanaで、ステージ優勝した後のドーピングチェックにおいて血液ドーピング(自己輸血ドーピング)が発覚。アテネオリンピックでEkimovを立てて2位に敗れたロシアがHamiltonの金メダル無効を主張してCASに訴えるなど大騒動になった(最終的にロシアの主張は却下されHamiltonの金メダル確定)。
問題のVuelta a Espanaにおけるドーピング検査でHamiltonはBサンプルでも血液ドーピング「クロ」と判定され、2年間の出場停止処分を受けた。Hamiltonは「アテネオリンピックのドーピングチェックでシロだった」事を論拠としてあらゆる場所に訴え様々なロビー活動を行う徹底抗戦を展開したが、結局無罪を勝ち取ることはできなかった。
だが、今回はAサンプルの結果が出た時点で「クロ」であることを即座に自白。
現役生活にも自らピリオドを打った。
違反物質がDHEAとは、こりゃまたスポーツ選手のドーピングスキャンダルでは珍しい物質での違反だった。何故ならDHEAは運動能力にそんなに“効く”モンではないからだ。ようは男性ホルモンの一種だが、有名なテストステロンの何十分の一くらいの作用しかなく、副作用としても前立腺癌の人が服用すると癌を促進する可能性がある程度のモノ。
だから、Hamiltonは自白内容で鬱治療目的で服用したと話しているのは本当の本音じゃないかと思うほどだ。サプリメントの個人輸入代行業界で は「若返りホルモン」として有名(?)なDHEAだが、アメリカあたりでは「生活習慣病全般と軽度の鬱に効く、服用にちょっと注意は要する市販薬」程度の認識であった筈だ(生活習慣病 に効くから若返りなのか若返りだから生活習慣病に効くのか…)。変な話だが、Hamiltonとは「もっと効くブツ」で挙げられて然るべきクラスの、ドーピングに関しちゃ“大物”なのである(苦笑)
評するなれば「ガチのドーピング」である血液ドーピング(=医師から間違って処方された薬のせいだとか何とかがあり得ない、本気でドーピングする奴しか使わないドーピング手法の一つ)で挙げられた事のあるHamiltonが、鬱を治したくて市販薬飲んでアウトなのが個人的に物凄く拍子抜けで「はぁぁ??」な感じだ。不謹慎な喩えだが、白昼の銀行で猟銃ぶっ放した事のある元強盗が再犯し、今度は何をやったのかと思ったら「拾った財布に入っていた1000円をネコババして捕まった」ような話だ。もちろん違反は違反だし本人も違反であると分かっていて飲んでいたのだから「何やってんだよ…」だが、それにしてもコレは腰が砕ける。
なんにせよ、今後はゆっくりしてくれ。
きっと「もう沢山だ」と思っている筈だろう。彼自身が誰よりもね。
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コメント
3億円事件の犯人が、自販機のおつりに100円を見つけてネコババしたという感じでしょうか。
いずれにせよ、50歩100歩というか、罪であることに変わりはないのですが。
投稿: nanashi | 2009年4月19日 (日) 09:06