冬を耐え抜けば必ず春が来る
目的が「速く走ること」なら、ただ走るだけでは意味がない。
ボーッと走っていては、うまく行ったときなぜうまく走れたのか、うまく行かなかったとき何故うまく走れなかったのかが何一つ分からない。成功はいつも偶然に頼らねばならず、同じ理由の失敗を何度でも繰り返す。
たかがウォームアップ
されどウォームアップ
約10kmのコースで個人TTをする際に、ウォームアップの量とTTで計測された出力の因果関係についてこの冬の間ずっと調べ続けた。タイムは全く調べていない。そんなものはちょっとした向かい風やちょっとした追い風で簡単に何十秒も変わってしまうため、何の指標にもなりはしない。問題は、出力だ。
徹底比較したのは
- ウォームアップせずにいきなり走り出した場合
- 3本ローラーで15分のウォームアップを行ってから走り出した場合
- 3本ローラーで30分のウォームアップを行ってから走り出した場合
- 3本ローラーで45分のウォームアップを行ってから走り出した場合
- 3本ローラーで60分のウォームアップを行ってから走り出した場合
- 3本ローラーで75分のウォームアップを行ってから走り出した場合
である。各々1回や2回のサンプル数で神髄を掴んだ気になるほど間抜けな脳味噌は搭載していないので、実に合計70回を超える試行を敢行した。それゆえ4月になってやっとこさ姿を見せた状態だ。自分でも「よくもまあこんなモンいちいちしつこく調べるよな」と思う。特に1.など、いわゆる“ジョーシキ”で考えれば多くの人が「良い成果が出る筈もないことなど調べなくても分かり切っている」と訳知り顔で吹くワケだ。じゃあアンタはそれを調べたのか?と思う。誰かから聞いた受け売りのジョーシキをさも訳知り顔で吹いているだけなのだ。そしてその知識の仕入れ元になった人物も、誰かから聞いただけなのだ、きっと。ついでに書くと、そのような情報の“震源地”を本気で探っていくと、最終的な情報の震源地となった人物は何の根拠も持っておらず「何となくそう思っただけ」だったりする。都市伝説によくある話だが。
地道な調査をバカにする人は、たぶん他でもあちこち横着ぶっこきまくっている。横着ぶっこいても成果をあげられるのは、ごく一握りの神に愛された天才だけ。常人の横着が長い目で見て良い成果を生むことなどあり得ない。横着な人は、横着癖さえなかったなら「特別な才能がなくても達成できた筈の何か」を、自分自身でスポイルし続ける人生を送るのだ。出来ないことは、そりゃ出来ないだろう。だが、出来ることをサボって達成できる成果なんてねーよ、と。
そんなわけで、自分の才能を信用していないワタシは横着せずに調べる。
しかもそれに四半期使ってしまう。
アマチュアの時間と手間はタダだから、これほど強いモノはない。
プロにはこんな勿体ないことは出来ないのだ。
いきなり結論から述べると、
- 30秒維持出力は、30分ウォームアップした場合で最も良好であったが、実際には試行ごとの差が大きく、有為な差が出たと判断するのは疑問で、事実上ウォームアップの有無や量にほとんど依存しなかった。
- 1分間維持出力は、ウォームアップ30分〜60分の場合がほぼ同値で拮抗して良好で、その他が少し落ちた。
- 5分間維持出力が最も高まったのは、60分のウォームアップを行った場合であった。が、45分及び75分との差は少しであった。ウォームアップをせずに走り出した場合は明確に他より成績が悪かった。
- 20分間維持出力が最も高まったのは、60分のウォームアップを行った場合で、この出力が、ウォームアップをせずに走り出した場合とウォームアップを行ってから走り出した場合との差が最も顕著であった。
体感では、ウォームアップ開始から調子の良いときで8分、あまり良くないときでも13分くらいから「脚の回りがよくなる」のを感じはじめ、特に無理しなくてもケイデンスが上昇(開始は100rpm前後、この頃107rpm前後に上がる)し始める。最低限の“暖機運転”は15分と見た方が良さそうだ。
更に続けると35〜40分くらいで“一段上にギアが入る”ような感じとなり、更に脚が良く回る(連続して110rpm以上を「楽に維持」できるようになる)。総合成績で見て60分ウォームアップが一番好成績を記録したのは、この絶好調の状態に持って行ってからかつある程度時間が経過し、体が完全に“運動する状態”になっている時点で走り出すからだと思われる。45分と60分でほとんど差がないのは、45分でも既に体はほぼ運動する状態になっているからと思われる。75分まで行くと逆に成績が僅かではあるが落ち始めるのは、絶好調の状態をウォームアップで“無駄遣い”してしまうから?と推定しているが定かでない。ここまでやると「ウォームアップ」だけで500kcal以上を消費してしまうので、エネルギー補給に問題がある(もっとエネルギーを補給する必要がある)可能性も十分考えられる。
以上の結果から、どうやらワタシがよい走りをするために必要なウォームアップは45分から60分の間。45分以下では成績が悪化し、60分以上やっても意味はない(数字が向上しない)。
この数字が他人に通用するかどうかなんか知らないし興味もない。学者じゃないから。
全ては自分自身が速く走るため。
そんなエゴイストでなければ、自転車に金も時間も突っ込んで速く走ろうと思うわけないのだ(笑)
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コメント
ポジションの設定にも共通だけど、面倒で地道な試行錯誤をできるのって重要ね。
常識や思い込みを疑ってみることも大事。
あなたのブログでキシリウムSLのリム重量が軽くないという事実を知りました。
投稿: 捨てハン | 2009年4月 5日 (日) 13:12
いつも楽しく読ませていただき有難うございます。
がむしゃらに練習はするのですが、
横着でこのような調査はしたことがないので目からウロコでした。
ウォームアップもしたことが無かったのですが、
これからは心を入れ替えます。
投稿: やあくん | 2009年4月 5日 (日) 17:17
実に面白い研究ですねぇ。
ウォームアップは必ず要るということは私も体感していましたが、
ここまで突き詰めようという考えは全く浮かびませんでお恥ずかしい限り・・・。
これからはウォームアップとはいえもう少し丁寧にやってみようと思います。
投稿: Y.Saito | 2009年4月 5日 (日) 18:17
はじめまして。いつも楽しく読まさせていただいています。
ウォーミングアップの時間にいつも苦労していたのですが、60分が一番効果があるというのは凄く納得の行く検証結果だと思います。
チームの練習でもどんなに体調が悪い時でも、60分過ぎると少しはましになる、というか少しは走れるようになるのが不思議に思ってましたが(あくまで当社比です。)、年のせいだけではないのだなと
あたらめて思いました。ウォーミングアップは凄く大切なんですね。
貴重な検証結果の公表ありがとうございました。
投稿: chan | 2009年4月 5日 (日) 21:42
大変面白いです。そもそも人体にはグウタラ状態と高強度運動に適応した生理状態があるように感じられます。1時間くらい乗ってくるとその後1~3日くらい運動適応状態が持続しているように感じます。そこで新たな疑問ですが、ウォームアップ後少し休憩してから走るとより出力が増すのではないでしょうか?何分休憩すれば良いのでしょうか?それとも休憩しない方が良いのでしょうか?また、ウォームアップの強度はどのくらいが良いのでしょうか?心拍で70%くらい?50%くらい?
そうそう、心臓は他の随意筋と違って90秒くらいウォームアップすると高強度拍動状態に適応すると聞いたことがあります。このトランジションのとき心臓は苦しくなるが、この”苦しさ”は鍛えられないとも聞いたことがあります。本当かな?スポーツ選手になるほど訓練したことがないので(^_^;、、、数分間維持出力だと随意筋と心筋の両方の効果が絡んできそうな気もしますね。
投稿: あれこれなんでも | 2009年4月 5日 (日) 22:10
いつも見てるばっかりのROMですが、今回の検証にはコメントせざるを得ません!
レース前、ローラーなら45分・実走なら60分でようやく安心できる気がしてました。
それが良いのか悪いのかもわからずに。
この検証で安心して自分の感性に任せてウォーミングアップできます。
信じる指標があると練習もレースもやりやすいですよね。
今、それを物にしようとしている最中なのですが、なかなか時間が掛かる作業ですし、自分の調子に偏りがあるので自分の検証を信じるのが難しいところでした。
今回の記事は自分の感性とも共通する所が数値化されて出されているのでとても安心感のある記事でした。
ありがとうございます。
確信が得られる記事を見させてもらって得した気分です。
これからも見るので頑張ってください。
投稿: roan | 2009年4月 5日 (日) 23:35
大変興味深く、また姿勢がきっちりしていてい気持ちよく読ませてもらいました。
コメントが、アイディアというか横着というか微妙なものが混じっていて、別の意味でおもしろいですね。
投稿: う。 | 2009年4月 6日 (月) 00:27
大変興味深いエントリ楽しく拝見させて頂きました。
ウォームアップは、実際のレース現場を想定して固定ローラ若しくは自走で行われたのでしょうか?
あと、ウォームアップの方法はあるW数(とケイデンス)をキープするような方法でしょうか?
それとも心拍で管理?
ウォームアップの時間が重要なのか運動量が重要なのか気になりましたので。。。
投稿: greenmochi | 2009年4月 6日 (月) 23:30