アントニオ猪木氏は不利なのか!?
cyclowiredに掲載された「DHバー発明者ブーン・レノンが考えるTTクリニック」は皆さん既読だろうか?
ワタシはcyclowiredをほぼ毎日見るので掲載即日読んだのだが「ああ、なるほど」と思うことが幾つもあった。
特に印象的だったのは、顎についての話。
顎を突き出したフォームで走るのは空力が悪く、当Blogでは前から指摘してる「エアロヘルメットの“尾っぽ”が立ってしまっているエアブレーキ状態」の方が、顎を付きだしたフォームよりまだマシなんだそうだ。
ああ、なるほど。
とすればLevi Leipheimerのあの個性的なポジションは、Boone Lennon理論に基づくと物凄く正しかったワケだ。
かつてOGKがAERO-TPを発表した時にも取り上げたが、なんせLeipheimerは
こんな風に「前見て!前!!!」と見てる方がビビってしまうほど真下を向いているし、そのせいでエアロヘルメットがかえって空気抵抗になってんじゃないかと思うほど色々特徴的なんだけど、見事にこれ以上ないほど顎を引いたフォームだし、手が上を向いてるのがイカンとSteve Hedからツッコミを受けたりもしているがウデと頭がほとんど一体と化しているなど、Boone Lennon的には大変理に適っていると想像される。
最終的な答えは風洞実験しないと分からない事ではあるけど、Lennon氏はキャリアも長いプロ中のプロ。風洞実験とかも当然した上で、顎が「忘れ られがちなポイント」である事を見つけ出したのだろう。レースは結果が全てだから、ヨタで20年渡っていけるほど甘い業界じゃない。
そしてこの顎を引いたフォームで現役ナンバーワンと思われるLeipheimerは、実際速い。平地のTTでは、本来「大柄で体重があり出せるパワーも大きい」選手が有利である。体重がマイナス要素としてほとんど作用しないからだ。なのにLeipheimerは身長170cmと日本人の感覚で見てさえスポーツ選手としては明らかに小柄でありながら、大馬力を誇る巨漢達を平地TTで“喰って”しまう。最も特徴的だったのは2007年Le Tour de France 19ステージ個人TTで、ほとんど平坦路でしかも長距離の、小柄な選手が最も不利なシチュエーションながらLe Tour de Franceの個人TT史上で確か5位くらいに入る驚異的平均速度を記録して完勝。本人さえレース後に「今日は人生最高の脚だった」と語ったくらいの快走だったが、これは彼がいかに優れた空力のフォームで走っているかを示していると思う。ロクに走ったことがないシロートがこれから鍛える話じゃなく、ギリギリまで鍛え上げた肉体を用意した上で戦っているこのクラスのレベルの選手で、1時間平均出力を20Wとか30Wも向上させるのはそれこそドーピングでもしないと不可能だ。シロートだって、5分間出力は無駄なトレーニングをしない限り3ヶ月もあれば別人のように上がるだろうが1時間平均出力を20W上げるには努力と根気、練習期間が要る。有酸素運動能力を短期間で向上させる魔法は存在しないからだ。だが、このクラスの選手が平地の個人TTで走る速度域を考えると、出力の90%くらいは空気抵抗を何とかするために使われているため、フォームを直しただけで同じ速度で走るのに必要な出力が呆気なく20W下がってもそれは全然ホラじゃない。逆に「まあそのくらいいいんじゃ?」と少し妥協したことが呆気なく勝敗を分ける決定打ともなるのだ。TT用の機材をバカみたいに金注ぎ込んで作るメーカーも、ちっとも「ちょっとしか変わらない事に金をかけるバカ」じゃなくて、おんなじ馬力なら空力がいい方が速くゴールに着く、論議する必要すらない事に対してどれだけ徹底できるかできないかだけのハナシだ。勝負の世界とは不思議なもので、徹底できる奴にしか見えない世界が必ずある。傍観者をぶっこいている限り、どれだけ訳知り顔で吹けても結局肝心なコトは何も見えない。やったことがない人間にはどれが大事なことでどれはどうでもいいことかの区別が同じモノを見ていても付かないから、自分じゃ見て知っているつもりでも結局何も見えていないのと同じなのだ。なんせワタシのような末端レベルでもやればやるほど新事実が見えて驚く。もっと資金も技術も知識もあって遙か高いレベルで突き詰めている人達にはもっと面白い世界が見えていて、次はどれから改良していいかわからないくらい「ここをこうすればもっと良くなる」をあちこち痛感していることだろう。
例えば氏のアゴ理論はワタシの経験的にも納得が行く。
40km/hくらいで連続走行しているとき「真ん前」を見るよりも「顔を下に向けて斜め上を目だけでチラ見」するようなフォームで走った方が耳に聞こえる風切り音が小さいからだ。そんな「ちーせえこと」を気にしている人は少ないかも知れないが、ワタシはそんなどうでもいい些末なことでも気にしながら走る。そうした方が面白いからね。いろいろ試すとホント面白くて、顎を引いて頭を下げてゆくとガクンと風切り音が減るポイントまであり、前からこれは気になっていた。それは「たまたま」だったりしたのかも知れないけれど、風切り音ひとつとってもゴウゴウ聞こえるより小さい方が絶対にいい。何故なら風切り音とは、本来前に進むために使いたいエネルギーを、流体たる空気を掻き乱して波(=音)を発生させるのに浪費してしまっているから出るのだ。理想は風切り音など聞こえない状態(耳栓禁止)だ。それはダンシングの時にタイヤからゴーゴー音をさせるのはおよそ良いダンシングではないのと同じ事だ。
空力に関する話は、知れば知るほど幾らでも改善点が見つかり面白い。
知れば知るほど「もっと知りたい」と思う。
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コメント
奇しくも私がハンドルエクステンションバーを注文してしまったのがこの記事を読んだ今日です。
そう、シクロワイアードを知りませんでした・・・。
それにしても・・・、是非参加したいですねぇ、氏のサイクルクリニック。
投稿: POLA-MIN | 2009年5月18日 (月) 02:33
LeipheimerはCASCOのWARP IIを被ったら良いのでは?と思ってしまいますね。
あれだとエアブレーキになりようがないので(笑)
投稿: 安倍礼司 | 2009年5月21日 (木) 08:52