衝撃的5ミリ
見比べて貰えば分かるが、ハイトが1mmも変わっていない(0.9mm高くなっただけ)のに幅が5mm以上拡がっているのだ。
これは「前方投影面積=空力」とか「尖っている方が空力がいい」だとか思っている、第二次世界大戦当時ですら既に怪しかったような空力思想をまだ後生大事に動態保存している天然記念物級の人にとっては信じがたい改悪に違いない。
「ああ、これは抜群に理に適っているな。さすがZIPPは毎年改良してくるわ」
とまさにシャッポを脱いだ。
タイヤは円
これは変えられない。
とすれば、リムと含めてトータルでNACAプロファイルに近づけようとした時、自ずとリムがタイヤと同じ幅だったりタイヤより細かったりしてよいハズはないのだ。むしろある程度の線までリムはタイヤより幅を太くし、緩やかな曲線の一部としてタイヤを“取り込んで”しまうような形状に近づいて行かなければならない。リム単体で完結した形にタイヤが“乗っかって”いるうちはまだまだ甘いのだ。
BontragerのAeolusもそのような形状を取り入れたリムの一つで、「カウル」の部分が明らかにタイヤより太くなっている。が、この09 ZIPP 303はAeolusの比ではない。他のホイールとの互換性を犠牲にしてブレーキ面を5mmも拡げてしまう「暴挙」までやってのけ、よりはっきりと理想型を追求した。他社製と違うどころの違いではない。ZIPP自身の全旧製品とも全然違うのだから、これは凄いチャレンジだ。ブレーキ面の幅が5mmも違うとホイールの交換はただホイと入れ替えるだけでは済まずブレーキキャリパーの再調整が必要だし、ブレーキキャリパーによって引きしろ調整では対応しきれないものもあるだろう。そうなるともう完全にどちらかに調整してしまうしかなく、もはや新303を使うこととは、旧製品と手を切って全く新しいリムに乗り換える踏み絵だ。文句も来るはずだ。それでもなお「これが正しいんだ」と押し切る気なのだ。
HED.がタイヤに接する部分のリム形状を変えてより深くタイヤが入り込む形にしてきた(この新形状は「C2」と呼ばれている)あたりで次はこのような潮流が来るかなと微かに感じてはいたが、まさかブレーキ面を一気に5mmもドカンと拡げる会社が、こう早く出てくるとは。事態はワタシが予想していたよりもずっと速いスピードで進行している。しかも見れば分かるがこの303ではただ拡がっただけでなく、はっきりと左右のブレーキ面が平行でない「ハの字」プロファイルまで取り入れられた。これは空力を考えれば全く正しいのだが、実用面では色々問題もあろう。だから今まで前出のAeolusだってそうだし、およそほぼ全てのリムはそのようにブレーキ面を平行に作って来たのだ。幅だってほぼ揃いも揃って20mm前後にしてきた。このブレーキ面の左右平行や幅を無視して来たのはせいぜいトラック専用ホイールと、同じZIPPでも空力の良さを徹底アピールする代わり重さは自社製の同等品より200g近くも重い「当社比世界最高速ディスクホイール」たるSub-9くらいだった。ユーザー自体探さなきゃ見つからないくらい少ない製品なので知らない人がほとんどだろうが、Sub-9もブレーキ面が「ハの字」で、独特の外周の膨らみによる曲面と併せタイヤを取り込むようなプロファイルになっている。いかにも空力のために全て捨てたホイールらしい。だがSub-9は後輪専用ディスクホイールだし高価で数が出ない商品だからヘンテコ形状を採用したところで影響はほとんどない。それを明らかに最量販クラスの303においてこのブレーキ面の“聖域”扱いをやめ手を入れてきたのが凄い。「現状の規格と妥協していて本当にいい物は出せない」と決断したのだろう。いやはや。
ZIPPのこの「最先端の技術はいつもZIPPから始まる」と宣言せんばかりの姿勢、清々しくて最高だな。
この新プロファイルは見た目とか実際の違いがどのくらいあるかよりもずっとBreakthroughだ。長いこと続いてきた暗黙のお約束を反故にしてしまったからだ。もうリムのブレーキ面の幅は20mmではなく、左右平行でもない。遂にやっちゃった前例が出来た以上、他社が「負けてられるか」と類似形状を取り入れてくるまでにそう長い時間は掛からない。お約束を破っても理想を追求する方向に大転換した奴が出た以上、もはや理想の空力形状に目を瞑る理由はなくなった。競争だからな。
リムの幅は20mmくらいと想定しておけばよい時代が終わろうとしている。
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コメント
完全に気軽に買えるカーボンホイールの王様的存在になりそうですね。
全製品ハブ、スポークアレンジメントの変更、リム形状変更やばいです。
EDGEの195グラムのリムもよさそうですが・・・
ZIPPの808で大体のバトンホイールよりかも空力がいい時点ですごいですけどね。
投稿: hiro | 2009年5月 5日 (火) 14:04