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2009年6月29日 (月)

XeNTiS Mark1 TT

踏んだ体感として軽くはないのだけど、どんどん上まで回る不思議なオーストリア製ホイール。

Mark1tt_2

XeNTiSと来れば、古くはT・Mobile時代のJan Ulrichが自前のWalser製TT自転車にWalser特製(WalserのTT用自転車の特殊なエンド幅に使えるよう幅が狭められ、リアスプロケットの逃げも特別に造形された専用品)のMark1を装着していた。

今はトライアスロン界のスター選手、Faris Al Sultanだろう。
Mark1(ただしたぶんHigh Modulusのプロト)しかなかった頃から使い、最近はもっぱらMark1 TTを使う。Mark1とは関係ないが、Al SultanはCannondaleからStorckに乗り換えたようだ。

そのMark1 TTだ。

リムハイトがMark1の42mmから57mmへとよりディープリム化し、バトンも更に空力を重視して回転方向に長く扁平なものに変化した、より高速域での走行に特化したバージョンとして作られた。名前に「TT」と入っている通りである。

  1. 縦剛性が凄い。タイヤからクランクまでが1μの遊びもない状態で直結されているかのような錯覚に囚われるほど応答性が良い。とにかく縦剛性ガチガチ。
  2. 徹底的に「歪むことを知らない円」として回るため、荒れ気味の路面での乗り心地は本性として酷く、荒れ気味の路面を走りたいなら徹底的にしなやかなタイヤを使う必要がある。つまりコースに応じたタイヤチョイス/空気圧調整を誤ると跳ねまくって全然踏めなくなる。体重が軽い人間が、高圧の方が良く転がるからと空気圧を高めすぎたらそりゃもうポンポン跳ねる。逆に綺麗な路面を走るときの爽快極まりない転がり感は快感ですらある。
  3. 横剛性もこれまた強烈で、ダンシングしてもしなっている感じが全くしない。とにかくカタい。コーナーをダンシングで立ち上がる時、姿勢やペダリングが乱れると簡単に後輪が滑って暴れる。しなってたわんで吸収してくれないからだ。
  4. 物凄く複雑な三次曲面で構成された「どこにも直線がない」造形は見事の一言で、これほど複雑な形のカーボンホイールを作っているメーカーは他にないと思う。
  5. HED.のように分かりやすい「継ぎ目」がないため一見では分かりにくいが、内部構造としてはCampagnoloであるとかSHIMANOであるとかのカーボンディープリムと違ってBontragerのAeolusやHED.のH3やSTINGERに類似する「強固なロープロファイルリムに、ペラッペラの“カウル”を補強材料を兼ねて取り付けた」ような作り。リムのブレーキ面以外の内周部分は指でちょっと押しただけで凹むほど薄く出来ている。バトン部分は場所に応じて硬さが異なり、形だけでなく強度の出し方としてもかなり複雑に作られている事が分かる。
  6. 内部に充填材が用いられていないため、リム、バトン部、そして特にハブ付近に存在するかなりの体積の空洞部分でタイヤの転がり音が盛大に「ごおおおおおおお」と反響する、かなりウルサいホイールである。これは近づくと「何か来た!」と弥が上にも感じる。抜く直前まで気が付かれずに近づくなど無理だと思うし、逆に乗っている方は自分がウルサイから近づかれるまで気付きにくい。
  7. 面白いグラフィックだが、高速回転中に丁度いい模様を形成するようになっている。考えてある。
  8. ブレーキはかなり効く。それどころかむしろ効き過ぎる傾向があり、「余りきかないブレーキシュー」と組み合わせないとドカンと効き過ぎてロックしやすく危ない。これはHED.のH3Cと似ている。
  9. 横風にはそれなりに弱く、iOほどではないが50mm付近のハイトのスポークホイールとは別モノ。少なくとも「ディープリムのバトンホイールで横風を受けたとき、自転車がどんな挙動を見せるか」をイメージできない人がお遊びで使うホイールとしては危険だろう。「その時」に咄嗟に反応できない人なら呆気なくクラッシュもあり得る。

回転感覚がとにかく独特。

カルくはない。

間違ってもLightweightのように最初のクランク2,3回転で早くもそのとんでもなさを体感させてくれるような事はない。むしろズシンと来るような感触があり「あれ?」と違和感を覚えるかもしれない。変な話だが、ゼロスタート時の体感としては前後2000g級のホイールのように感じられる。これは「しなり」とか「撓み」が全然ない恐ろしくダイレクトなこのホイールの駆動剛性が、逆に脚に跳ね返るからではないかと思っている。重量はTublar 1590g/Clincher 1660gで、このレベルのエアロバトンホイールとしてはむしろ軽い部類に入り、つい2年くらい前のMAVIC COSMIC CARBONEあたりと較べると、リムハイトで上回るバトンホイールなのに200gくらい軽い。またカーボンクリンチャーモデルのチューブラーモデル比僅か70g増に収まっているのも面白い。フルカーボンクリンチャーリムはもっと重量が増えることが多いからだ。

カルくなくて、このズッシリと脚に来るまま、しかしどんどん上まで回る。

特に40km/hくらいからの伸びがもうひと味もふた味も違う。「これが最先端のエアロホイールか」と舌を巻く。

このあたりから空気抵抗は物凄いことになってきて加速度的に苦しくなるわけだが、非常に面白いことにMark1 TTには「あと一枚上で踏んでみろ。俺がその先を見せてやる」と背中を押してくるような感じがある。そこで回転を上げるのではなく一枚上にシフトアップして踏むと、その通り答える。こんな時でもMark1 TTは決して軽くない。踏む感触はキッチリ重い。重いのだけど「大丈夫だ。俺は回ってやるから信じてドンと踏め」と背中を押してくる。あまりの高負荷連続に脳味噌の酸素とか糖分が減って幻聴を聴いているのかも知れないが、エアロバーを握って45km/hくらいを維持して走る猛烈に苦しい状況下でも、回転を上げるのではなくシフトアップして一段上を踏みたくなる。実際速度は恐ろしく乗る。重く緻密に伸び続けるMark1 TTには、軽くヒューンと回るホイールにありがちな頭打ち感がない。46、47、48、49と伸びる。伸び方も勢いで出す感じじゃなく速度を「積み上げていく」ような感じで重厚に分厚く伸びる。50の大台だ。それでもまだ回ろうとする。こうなると乗っている人間の方がもたない。残念ながら50km/h以上となると一発は出せても何分も維持し続けるだけの出力はワタシにはない。このホイールの底知れない底を見るためには物凄い身体能力が必要だ。

ビューンと加速してあっという間に高速を出すホイール

ではない。

維持可能な最大出力を保ちつつ、維持可能な最高速でスタート〜ゴールを走り抜けるためのホイール

だろう。同じ速さでも「戦闘機感」じゃあない。奇妙な喩えかも知れないが「物凄い勢いで突進する戦車」のような速さ(最近の戦車は、あんなにとんでもなく重いのに出そうと思えば80〜100km/hくらい出せるものが珍しくない)を感じる。ナイフの切れ味ではなく斧や鉈の切れ味なのだ。Mark1 TTの速さは分厚くて力強い。それゆえか、妙な安心感がある。「まだいける」と思わせてくれる。

この回転感は、ちょっと病みつきかもだ。

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