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2009年7月10日 (金)

「メカニック魂」を見た

Le Tour de France 2009で今のところ一番

「メカニック魂(だましい)」を見た

思いの一台。

Canyon1

Silence LottoのエースCadel Evans用のTTマシン

何がしてあるのか分かるのに何秒か要した。

ヘッドチューブをバッサリと切り欠いて大穴をあけ、そこからステムを突っ込んでヘッドチューブ内のフォークコラムを掴んでいる。

たまげた。
この工作を実現するために、左右分割式のステムを使っている。
Canyon2
RITCHEYの名前が入っているしハンドルクランプ部などは確かにRITCHEYの形をしているが、こんなステムはRITCHEYの現行ラインナップに無かったと思う。どこから持ってきたのだろう?アルミ地丸出しの外観といい、ワンオフ品だろうか。

EvansのTTポジションは、低い。アームポジションの低さが尋常でない。常軌を逸しているくらい低い。だがこれで実際Evansは速いのだから、低いとか高いとかは“雑音”に過ぎない。Evansはツールの総合優勝を争うクラスの選手だ。当然時間も手間も(金も人も)たんまりかけて風洞実験してポジションを出している。有象無象のアシスト選手ならいざ知らず、今はもうそのくらいは当然のようにやらないと総合優勝争いなんて出来ない。何十年も前の牧歌的な時代じゃあないのだ。そんなわけで、あれで間違いなく合理性があるのだろう。

このクラスの選手が使う自転車には「選手に合う自転車」が求められる。「選手が合わせなければならない自転車」など産廃だ。

しかし、Evansのポジションは「ムチャクチャ」と評していいほど低い。RIDLEYが物凄く気合い入れて造ったTT専用フレームDEANも、Evansには全然合っていなかった。アジャスタブルステム(OVAL R710)を思いっきり下に向けた凄い状態で使用していたので、フレームだけで見るとまるで「フレームサイズを間違えて買ってしまった人」のような状態だった。

だがこれはどうしようもないコトだ。

一番小さいサイズのDEANでも、Evansには問題外なほどヘッドチューブが長すぎる。彼が“普通のステム”でポジションを出すには、ヘッドチューブ長がせいぜい3cm(笑)くらいでなければならないからだ。そんなTT用フレームなど現存しないし、ありふれたアヘッドステムを使用する形式のフレームでヘッドチューブ長3cmはいくらなんでも強度的に無理があるだろう。

Evansのポジションを無理せずすんなり実現するには、LOOK 496/596のようなステムシステムを備えるか、BMCのtimemachine TT01のように「エアロヒンジヘッド用のフォーク完全一体型ステムを、その人のポジションに合わせてフルオーダー」する以外の解がたぶんナイ。もしくは、かつてChris Boardmanが(何故かMarco Pantaniもほぼ同じく)これまた常軌を逸した低いポジションを出すためにやったように「フォークのクラウン部からハンドルを生やしてしまう」かだ。

SPECIALIZED Shivでも何か改造しないとダメだろう。アームレストまでの高さ543mm(Shivの全サイズ共通)では、99%くらいの選手にとっては十分でむしろ大方には低すぎさえするだろうが、Evansにとっては高すぎる。GIANTの「PROTOTYPE」改めTrinity Advanced SLSCOTT PLASMA 3 TTが辛うじていけるサイズを用意できそう(両方ともサイズとか今のところ未公表だが、COLOMBIA HighRoad HTCがこれらで走っている姿を見る限りではかなり強烈に低いステムハイトをもつ個体が走っているのを確認できた)なくらいか。

とにかく、普通のフレームで普通のことをしていてもEvansのポジションは出ない。

そこでCANYONとSilence Lottoのどちらが考えたのかは分からない(追記:この加工、元祖はどうもWalser Cycleらしい。相変わらずスゲエな)が、Evansのポジションを出すべく、このスゲエ工作に行き着いた。

素晴らしい工夫と情熱、執念さえ感じる。「参りました」感ありありだ。

本当は、それこそPLASMA 3 TTなりtimemachine TT01なりKG596CLMなりのようなフレームをイチから作るのが一番良いのだろう。フレームを切り欠いて強度が上がることはない。しかもここまで工作してしまうと“プロ専用のスペシャルマシン”化しすぎてしまい、CANYONフレームの販売に貢献するかどうかも「?」が付く。こんなとんでもない大規模改造モノなど逆立ちしても市販はできないからだ。必要な形があるなら、もとからそのような形で作るのが当然一番信頼性は高い。合理的だ。だが、TT01やKG596のようなエアロヒンジだと特許も絡む。誰もが「正しい方法」をストレートに実践できる立場にいるわけではない。

CANYONのフレームの枠から出られない制約の中でこの凄い工作を考えつき、そしてツールの総合優勝争いをするクラスの選手の大パワーに負けないだけの強度に作り込み、選手に「これで走ってくれ」と渡す。プロの仕事だ。考えついてヤルだけなら出来る人間はいるだろうが、思い付いてやってみたレベルとツールの総合優勝争いに投入できる信頼性・安心感を与えられるかどうかは別モンだ。作ってみて、走ってみたら不具合が出て「やっぱり強度が足らなかったか(苦笑)」じゃあすまされないのだ。一流のプロの仕事にはいつも感動させられる。

ハンドル位置を低く出来なくて困っているのがもはや「持病」と化したV2 BOOMERANGで真似しようかなってくらいだ。どうせ既に半死半生のフレームだから、今更穴とか増えても惜しくないし(いよいよ死ぬからやめとけ)。

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コメント

昔のTTバイクにこんなのありましたよね。
http://www.gitaneusa.com/images/history/Cycles-Gitane---creators-of.jpg
ジタンのTTバイクです(古)
ヘッドからハンドルが生えているのはビジュアル的にも強烈です。

投稿: aoba | 2009年7月10日 (金) 08:07

LIVESTRONG 9//26さんこんにちは。

すごいTTバイクですね。

メカニックの発想力、(ある意味)開発力に脱帽です。

これほどまでのメカニックに支えられるCadel Evansは幸せですね。

投稿: Lightweighter | 2009年7月11日 (土) 18:16

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