« 1/5 | トップページ | SWISSSTOP »

2009年8月20日 (木)

掌中の鍵。使うか使わないかは当人次第

いわゆる「ダイエット本」とは、まるでアプローチが違う奇書。
スポーツマンは手を出してはいけない本かも。

ズバリ「いかにして合理的に脂肪だけを落としてキレイな身体を得るか」を、典型的ダイエット本にあるウソ抜きで書いてしまった本。簡単に書けば「正面からドーピングダイエットを解説した本」である。

この本はナントカダイエット法のための器具であるとか謎な自社サプリを売るためのモノではなく、実際にファッションモデル等があの異常なまでのスリム体型を得る(実際に自分で節制してみればわかるが、あのような体型は単に食事制限しただけでは得られない)ために行っている薬品の使用法をそのまんま解説していたりする衝撃のハウツー本だ。筋肉を落とさず脂肪だけを落とすための“ドーピング”方法が、その副作用もきちんと説明した上で解説してある。それほど副作用がないライトなものから、1日あたりキログラム単位で脂肪が減ってゆく代わり4日連続摂取しただけで三途の川を渡ってしまうアンダーグラウンドの横綱まで。

合理性の追求は徹底していて、精神論ダイエットを一切無視した内容はある意味「目ウロコ」である。ここまで「ぶっちゃけて」しまったダイエット本は極めて珍しいと思う。通常、ダイエットの本とはもっと肝心なコトをオブラートに包んでチチンプイプイやウソを山盛り入れて夢だけ持たせて、結果としてはダイエット失敗者を量産するものだからだ。

が、それでいいのだ。朝バナナダイエットで死者は出ないから。ゆえにあのような馬鹿馬鹿しいマジナイは、まったく呆れた噴飯モノだが案外罪がない。本当に苦労せず痩せられる方法の紹介など、自己管理能力がない人にまで知れ渡ると死者を次々生む可能性すらある点で毒のように危険であり、ダイエット法は効かない詐欺モノほど安全性はむしろ高い傾向を持つ奇妙な矛盾がある。ゆえに「最短距離で目的を達成する方法を教えるのは良いことか」は、少しだけ哲学的だ。

この本の通りにやると、たぶん本当に痩せる。

「たぶん」なのは実践したわけではないからだが、実際に使われている“処方”だから間違いなかろう。それはEPOを適量打てば有酸素運動能力が上がるのはいちいち自分で試してみなくても明らかなのと同じだ。

だが、副作用もこれまた本当に来るだろう。これもやっているのがドーピングだから当然のコトだ。ドーピングを実践したアスリートで長生きして天寿を全うした人間はほとんどいない。Le Tour de Franceに5勝し“巨匠”の異名を取った大選手Jacques Anquetilは胃癌で比較的早く早世(53歳没)したが、彼が癌になったのはドーピングが遠因の可能性を否定できないと思う。経口摂取型の薬物は胃に通常ではあり得ない多大な負担をかけることが多い。そして以前も書いたがAnquetilは「ドーピング全面禁止に対して強固に反対」したことでも有名な人物だ。

食事管理と運動だけで、薬など摂取しなくても引き締まった身体は得られる。経験的にも間違いない。だがその「言葉で書けば簡単なこと」が果てしなく難しいのも事実で「ヤル気さえあれば誰にでも出来る」など、やったことがないかタチの悪い嘘つきにしか吐けない台詞である。本気で追い込んで体脂肪率一桁の世界に行くとなると、もはや精神構造から少し変えてしまうくらいでないとダメだろうと思うくらい気が遠くなるほどの精神力がいる。それは一時的に何かを辛抱すればよいのとは違う。毎日ずっと、何百日も果てしなく節制と運動を繰り返すコトだからだ。そのためには、結果を気にせず好きなものや美味しいものやジャンクフードを食べ、運動も好きなようにやったりやらなかったりする事の安楽さより、体重計や体脂肪計、パワーメーターや心拍計の数字が向上する事の方がずっと嬉しいと考えるような、生き物として些か常軌を逸している思考回路へと感じ方そのものを変えてしまうくらいでないと完遂は難しいと思う。なんせ、血の滲む思いをしてそこまでやっても、プロスポーツ選手だったりしない限り誉めて貰えることはまずなくて「えらいこと頬がこけた」「大丈夫か」「病気じゃないのか」などと心配されるのが関の山。物凄く大変なことをやっているのにそれを認めてくれる人はほとんどなく、達成感の全ては自分の中にしかない。肉体的な病気じゃないことが理解して貰えたとしても、違う意味で「あいつはビョーキだ」と思われるだけ(笑)

ところが、この本はそこまでの驚異的忍耐なしに「それ」を可能にする。忍耐不要の代償は副作用だ。それは肉体だけでなく精神作用すら及ぶ。たとえば多くの筋肉増強剤は、摂取していると頭がぼーっとして複雑な思考ができなくなり、つまらない事でもすぐ激昂するようになるなど「人が変わってしまう」ことが知られている。薬の常として、劇的に効くモノはそれだけ激しい副作用を持つ。

忍耐することをやめてより簡単な方法を選択してしまうこと、しかもそれが膨大な忍耐の結果よりもよい結果をもたらしてくれることを体験で知るのは、膨大な時間を耐えてトレーニングしなければならないスポーツマンの精神性に影響を与えるのは必至だと思う。だからシリアスアスリートにこの本は知識として持っていて何ら問題はない(副作用の解説などは知っている方がずっと有用ですらあると思う)が、実践禁忌だろう。だいたい出てくる薬物の多くがドーピングチェックで混じりっけ無し真っ黒けのクロ(苦笑)なモノだし、それらの薬物の絶大な効果を身を以て知るワケだから、次は運動能力向上のためのドーピングに“更に発展”して何の不思議もない。本気で勝ちたい・成績を出したいと思っている人ほど危険で、厳重に一線を引き距離を置くべきだ。そも、本書で解説されている薬物にはスポーツにおけるドーピングで使われてきたものがかなりワンサカ出てくる。スポーツに詳しい人であれば一度は聞いたことがあると思われるメジャーな薬物「スタノゾロール」も当然のように登場するし、けっこう最新の“改良型”まで何種類も出てくる。筋肉増強作用があるドーピング薬剤は脂肪を減少させ筋肉を増やすので、ドーピングダイエット薬としても絶大な効果を発揮するからだ。

ワタシは本書の痩せ方は実践していない(もはや「必要ない」のもある)が、それは薬が効くことを体験として知った上で薬を使わない自信はさすがにないからだ。

「フーンなるほど」

で終わっているうちは何も問題ないが、効果が凄くあることを体験として知ってしまうとヤバイ気がする。強力な薬物の作用は精神にも及ぶので、しらふの時に「オレは大丈夫」と自分で思っていることほどイザって時に信用できないものはない。触らぬ神に祟りなし。

禁断の扉の鍵を渡してしまう本である。
開けるかどうかは、当人の判断に任されている。

|

« 1/5 | トップページ | SWISSSTOP »

コメント

ダイエット2週間目の私にとってはタイムリーな記事です。
人工的な甘味を食えないのがあんなに苦しいとは。もうかなり慣れましたけど。
しかし、ある時点からとても面白くなってきたんですよねぇ。
日々変動はあるものの、平均的に体重が減っていくことが。
そして、ペダルも明らかに軽い。そうなるともう、やめられません。

違う意味でビョーキなんですね、きっと(笑)

投稿: POLA-MIN | 2009年8月20日 (木) 13:42

こんにちは。

体脂肪率1桁でパワー計、心拍計、体脂肪計もっている俺はビョーキだったのか!
livestrongさん告知ありがとうございます。病名はLSD障害とか命名しましょうか。

しかしドーピングの行き着く先はどこなんでしょうか?
一つは害があってもいいから強力な作用をもつドーピング
あるいは害はないがそれなりの作用をもつドーピング

あるドーピングが規制されると、新しいドーピングが生まれる。その度に副作用と効果のトレードオフがおきますよね。「今日強くなれるなら明日はいらない」じゃなく、「効き目はマイルドだけど、10年後までは生きられる」というドーピングが開発されるはず。
実際、アメリカだとステロイドが禁止されて、プロホルモンが開発され、んでまた禁止されなんかまた他のスタックがという状態。
こうなると健康のためというドーピングを禁止する口実がなくなってきますよね。自己責任と科学という観点からだと別にアマチュアがドーピングするのは全く悪いことではないという結論になってしまう(旧共産圏で国がらみでやってたのは科学的というのが正しいことという信念があったから。)ドーピングとは生理作用を誰もがコントロールできることということに変わっていくような気がします。そうなったときはナチュラルである方がインチキみたいになるんじゃないでしょうか?ウサイン・ボルトみたいに。

投稿: cano | 2009年8月21日 (金) 03:03

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 1/5 | トップページ | SWISSSTOP »