頂の上じゃないから見える風景「ツアー・オペレーター」
Le Tour de Franceの“リアル”を描いた映画作品。
2010シーズンからプロツアーライセンスの更新を拒否されたフランスのプロチームCofidis - Le Credit Par Telephone
「ツアー・オペレーター」は、基本的に2000年のCofidisに密着したドキュメンタリー映画である。
Cofidisは、今も昔も強くない。Le Tour de Franceに出場するチームを捕まえて「強くない」とは随分なハナシだが、逆に「トップチームの中で比べられてしまうと、どうしてもB級」なのが現実だ。そんなCofidisに加入した、当時新進気鋭の若手選手であったDavid Miller(2009年現在 Garmin Slipstream所属)がプロローグで“一発カマして”Maillot Jauneを獲得する(獲得「してしまう」と表現した方がより正しいだろう。理由は観れば分かる)ところから話はスタートする。
Lance ArmstrongやUS
Postalもほんのちょっと出てくるが、ワキ。あくまで「そんなスゴイ連中とこのチームは戦っている」程度の扱いでしかない。2000年のMont Ventouxにお
ける、あまりにも有名なArmstrongとPantaniの一騎討ちも、このCofidisにとってはあまり関係がない。
だから見える風景もある。
色んな登場人物が「超人達の世界一争い」とは違う景色を見せてくれる。
当時の総合ディレクターであったJean-Marie Leblancが車の中でどんなことを喋っているか(車載の携帯にいろんな電話がかかってくる)も垣間見える。
キャンピングカーでツールの“追っかけ”をやりながら選手に水を無償で配り続ける年金生活のおじいさんであるとか、物凄く「地味」な存在にもスポットが当たっている。このおじいさんは何度も登場する。
Le Tour de Franceを題材にしたドキュメント系映画は沢山ある。日本語化されているものだけでも幾つかある。賞を獲った「OVERCOMING」などは、同じ「ツール」参加チームのドキュメントでも全然違う。向こうはほとんど戦争のようなビリビリと緊迫した雰囲気に満ちているが、「ツアー・オペレーター」は同じツールとは思えないほどユルい。緊張していないわけでも一生懸命走っていないわけでもないが「寄らば斬るぞ」な雰囲気はナイ。それはガチンコで総合優勝を争える選手を揃え本気で勝ちに行っているトップチームCSCと「ステージ獲って目立つのがせいぜい」レベルのチームであるCofidisの間にある埋めがたい距離から生まれる違いだろう。Cofidisが総合優勝「したくない」と思っているわけではないが、CSCにおいて「ツールで総合優勝を目指す」は本気で狙っている現実の目標かつ不可能な事ではなく、選手達もスタッフもこの言葉に「もちろんだ」と燃える眼差しで返事してくる雰囲気に満ちているのに対し、Cofidisで「ツールで総合優勝を目指す」と喋ったら「おいおい、冗談きついぜソレ」と返事が返ってきそうな違いがある。
プロとしてレースに出ている以上、勝ちたくないヤツなどいない。
だが、いざプロとして最高の舞台にまで上り詰め他と競ってみると、気付くのが遅いか早いかだけでいずれ皆が現実を知る。
ありえねえほど強い奴はいる。
みな、走る前から負ける気でいるわけではない。
だからこそ余計に「あんなヤツと戦(や)って勝てる気がしねえ…」とも脳裏を過ぎるだろう。100%のベストで走りきっても全然かなわない相手がいる現実。オレは完全に目一杯の本気で走っていたんだ。でもヤツはそれを易々と抜いていったんだ。これ以上どうしろってんだ!と。チーム全体としても個々の選手としても、B級チームには独特の雰囲気が生まれる。それがすごく「いい味」になってこの作品の空気感を作り出している。
ワタシは今のところ「実像としてのツール」を一番良い感じに捉えている映画はコレじゃないかと思っている。
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コメント
個人的な意見で恐縮です。
以下の文章の流れががちょっとねじれているというか、CSCが主になるのに違和感を覚えました。
「(ツアー・オペレーターは)「寄らば斬るぞ」な雰囲気はナイ。それはCSCがガチンコで総合優勝を争える選手を揃えたトップチームだからだろう。」
投稿: fukumoto | 2009年11月20日 (金) 05:39
fukumoto さん、貴重なご意見ありがとうございました。
分かりにくい文章であったと私自身感じましたので変更させていただきました。
投稿: LIVESTRONG 9//26 | 2009年11月20日 (金) 15:03