ラストの謎 「竹光侍」松本大洋/永福一成
もう半年ほど前の話で恐縮なのだが、完結した際に取り上げようと思ったまま忘れていた(このBlogではよくあるコトだ。再度恐縮)ので、今頃だが取り上げる。
松本大洋/永福一成の「竹光侍」である。
時代ネタをやるタイプとは思えない、シュールな描写を得意とする松本大洋だが、大学の先輩であり友でもある永福の原作を得て新境地を開拓した。永福は、後から入った松本大洋ファンにとっては伝説の作品「STRAIGHT」(松本大洋メジャーデビュー作。連載は打ち切りで、1巻初版で絶版となった単行本に松本大洋がブレイクした後5桁の値段が付いた事でも話題になった)のアシスタントもしているなど漫画家・松本大洋のデビュー当時から関わっているヒトであり、現役バリバリの僧侶つまりお坊さんでもある。
「竹光侍」の物語は、無事に一本筋の通ったプロットできちんと完結した。
こう書くのは理由がある。けっこうヒットし松本大洋の代表作の一つとされる「鉄コン筋クリート」が、実はかなり違う筋になるはずだったのに連載打ち切りが決定したため無理に縮めあの形になったのは松本大洋ファンなら知っている。松本大洋作品、あれでけっこう「実は連載打ち切りで仕方なくあの形になった」ものが少なくないのだ。だが、今やセンセイとなった松本大洋ゆえ、この「竹光侍」では描く予定だったストーリーを全て描いての完結に違いなかろう。松本大洋ファンでも気が付いてない人もいると思うが、実は本作品、松本大洋の史上最長連載記録更新作品(これまでは「ナンバーファイブ」)になったくらいである。いかにも「キャラ違いの二大悪役」然としていた大村崎と武部が、クライマックス前に二人揃って意外な素顔を見せるのも実に良くできた筋だ。大村崎はもはや自分の立つ瀬はないコトを知ると腹を召して「武の人」らしい潔さを見せるし、ウザさ満載キャラだった武部が「理想のためには何でも犠牲にする」気骨と信念の持ち主であったのは驚いた読者もいただろう。筆頭家老が部下に土下座するなど、演技では出来ないことなのだ。それが武士だ。ゆえに武部の志はホンモノである。
原作付きではあるが、松本大洋「らしさ」もよく出ていたと思う。特に最終決戦時の、剣鬼として“解放”された瀬能の描写には「ZERO」の五島や「鉄コン筋クリート」のイタチを重ねた松本大洋ファンは多かろう。解放された瀬能に、狂気が実体化して歩いているような存在たる人斬りの木久地から「おめえのようになりたかった」と語らせるのがうまい。
「極限まで行き着いた人間」の描写は松本大洋にとって永遠のテーマに違いない。
一番らしからぬのは実に爽やかなラストだと思っていたが、10回、20回見直しているうち、ある妙な点(?)に気が付いた。
周りの人間はちゃんと歳をとっているように描かれているのだが、瀬能とお勝だけ同じ容貌のままである。
これは何故か、考えると面白い。
やはり松本大洋作品は一筋縄ではいかない。
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コメント
どういうことをお考えになったんでしょうか?
投稿: ksdysk | 2012年2月11日 (土) 21:47