歴史に残るフォーム
先日終了したTour de San Luisでは、2012年からOmega Pharma QuickStepに移籍したLevi Leipheimerが総合優勝した。
ビッグレースではないが、優勝したLeipheimerはじめTom BoonenやAlberto Contadorが出場するなど”大物”が何人か顔を揃えたレースになった。
圧巻は個人タイムトライアル。
それは一言で書けば「Leipheimer Show」であった。
凄まじいフォームである。
当Blogでは以前からLeipheimerのフォームについて度々取り上げてきたし、Leipheimerのエアロポジションが前面投影面積の小ささとCdA値の低さで非常に優秀なのは何人もの専門家やプロツアーチーム監督が指摘しているところなのだが、2012年に入っても全く衰えを知らないどころかますます磨きがかかる勢いである。上腕が短い身体的特徴を活かしきった、当代随一で余人には一切真似のできないLeipheimerだけのエアロポジション。肘よりも肩が前に出ているなど基本的な考え方は神話のオブリーポジションMk.1にも通じるもので、見れば見るほど「この理不尽な制約だらけのルールの中で、よくぞここまで練り上げた」と、TTに情熱を注ぐ人間の端くれとして感動せざるを得ない。それゆえ先日もネタとして取り上げたのだ。
お正月恒例エアロネタで行くと、1、2、4は現役最高峰レベル。
3がいっけんダメどころか現役トップ選手でダントツ最悪(笑)なのだけど、冷静に見れば「Leipheimerの腕は実はルール上の限界までしっかり前に出ているが、びっくりするくらい上体を前に乗り出しているので、相対的に腕を引いているように錯視してしまう」だけだ。これは垂線を何本か引いて分析*してみれば解る。
Leipheimerのこのフォームは彼がトップクラスのプロロードレーサーとしては小柄(公表値170cm)で、しかも身長比で鑑みてなお明らかに上腕が短くてかつ実はけっこう寸胴な身体的特徴に依存した特殊なフォームであり、似た体をもつ人間でなければマネすらできない領域にある。多くの人はマネをしたら肘を膝で蹴り上げることになってしまい自転車を漕ぐことすらまままならない筈だ。(何度も試してみた人間語る。笑)
Leipheimerが平地タイムトライアルで身体的に恵まれたハイパワーな選手を正面から破ってしばしば優勝するのは、この「彼しか出来ないフォーム」の空力が圧倒的に優れていること、そしてそれを保って走り続けることができる彼の走りの完成度(気がついていない人がいるかも知れないので書いておくが、このフォームは直進安定性が極めて悪い上に上腕へ不必要に負荷がかかる)が図抜けていることによりもたらされているのは度々指摘・賞賛されている。LeipheimerはFabian CancellaraのようにFTPが500Wを超えていたりしない。少しでもこのフォームが崩れ空力の優位を失えば大柄でハイパワーな選手に負けるのだ。しかしこの身長170cmの巨人は、ワタシの記憶違いでなければLe Tour de Franceにおいて「50キロメートル以上の距離で争われた個人タイムトライアルにおける史上最高平均速度記録」の保持者である!
腕がやや長めでさえあるワタシにはマネすらできない。そして面白い事に「スタイルがよくて運動向きの体型の人」ほど、Leipheimerを目指す努力はスタートする前から挫折が約束されている。どうあっても膝で肘を蹴り上げてしまうからだ。彼の身体的特徴は、運動選手としては本来優れた要素ではないどころかむしろ劣った要素に分類されるものだ。それを余人に真似のできない長所・天稟へと昇華させた彼の精進は、きっと歴史に残ると思う。
*ワタシは主だった選手のエアロフォーム各所に垂線や水平線を引いて特徴を分析している。自分のフォームも同じく。真剣にタイムトライアルやってますと僭称するならばそのくらいやって普通だと思っている。遅いから研究なんかしても無駄だ等と思っているとますます遅さに磨きがかかるだけだ。
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コメント
ああ、あの手を合わせるフォーム…何かに似ていると思ったら………
まるで神への祈りじゃないか
投稿: Enjoy! | 2012年2月 2日 (木) 08:57